はてなキーワード: 八女茶とは
もうすぐで70になろうかという母が「日本橋まで山本山のほうじ茶を買いに行きたい」と言い出した。
欲しいのは、3年前に友達のHさんと日本橋に行った際にお勧めされて買った、店舗限定お徳用ほうじ茶で、通販はしていないらしい。
確かに数年前、母が「やっぱり専門店のほうじ茶は味が違う」とやたらと騒いでいたことを思い出す。
母はガラケー使いで方向音痴だ。コロナウイルスの蔓延する最中、余所様に道を尋ねるのも申し訳ないと言う。
仕方ないので、店舗限定お徳用ほうじ茶1パックの報酬で、人間Google Mapとしてお供することになった。
あっさり山本山に着いたが、母は「こんなに白い店じゃなかった」と宣う。「店のイロチとか知らんがな」と薄情なムスメが考えている間に、母は店員さんに「この店、昔からこんな色でしたか?」と、老人性の申し訳ない質問をしていた。どうやら、このお店は2018年の秋にできたらしい。そうなると、確実にこのお店ではない。
なぜなら、母にほうじ茶を勧めてくれたHさんは2018年の梅雨頃に亡くなっているからだ。
日本橋地区には、デパ地下を除くと他の山本山の店舗はないらしい。
「こうなったら、当時のルートを思い出して歩くしかない」と母は言う。
「ルートを思い出せないからこうなっている」とか「お徳用ほうじ茶の報酬では割に合わない」とか、様々な思いが頭を過ったが、こうなったら引かない母を一人きりにして、日本橋で迷子になられても困るので、夕飯の準備時間までに帰ることを条件に付き合うことにした。
目的地も不明瞭なまま歩くこと1時間。「こんな店構えだった気がする。色も黒っぽい」と入った店には、念願の店舗限定お徳用ほうじ茶が売られていた。
母が「専門店のお茶」と有り難がっていたのは、「海苔の専門店のお茶」だった。
あまりに馬鹿馬鹿しいので、本物の「お茶の専門店のお茶」を思い知らせてやろうと山本山に戻った。まっすぐ歩けば10分もかからなかった。
片隅の喫茶コーナーが無人だったので、「コロナが怖いから、出先で飲食しない」の約束を反故にして、母の奢りでお茶を飲むことにした。1時間歩き続けたもうすぐ古稀と、在宅デスクワーカーの決意は脆い。
あれだけほうじ茶と騒いでいたのに、澄ました顔で「八女茶かしら、それとも宇治茶かしら」と悩む母を尻目に、お茶パフェ(単品)を発注。
お冷や代わりに出されたのは、なんとほうじ茶だった。
私の手元のほうじ茶を勝手に一口飲んだ母は「海苔屋のほうじ茶の方が美味しいわ」とほざいた。
悔しいので、山本山のほうじ茶を自腹で買って家で飲み比べてみた。確かに、母のお供の報酬でもらった山本海苔のほうじ茶の方が美味しかった。