本来15人ほど必要な仕事を、6人のスタッフと2人の新人で回している状態で、するとどうなるかというと、6人が2倍働いたうえで、新人の面倒も見ることになる。
当然うまくいくわけがないので、全員が毎日遅くまで残業してどうにか帳尻を合わせている状態が続いてた。
人手不足を解消しようと採用を行っても、出来のいい新人は入ってこない。
うちは同業よりも七割ほど給与が低いので、他社で落とされた人材しか回ってこないからだ。
面接で優秀だと感じた人に内定を出しても、「他で内定が出たので」と辞退されてしまうことが、月に1回起きていた。
状況を打破しようとして、給料があげられないか打診してみたが、話にもならなかった。
うちの部署の責任者である専務には、俺を含めて現場の人間が何度も進言したが、「仕事もできない新人に高い給与は払えない」と一蹴されてしまう。
俺たちは、2倍仕事をしたうえで、新人と5000円しか違わない給与で働いていることを忘れているらしい。
2年前まで、面倒見のいい課長がいたころは、それでもまだなんとかなっていた。
しかし彼が退職し、専務が直接うちの部署をみるようになってから、状況は徐々に悪くなっていた。
話を戻そう。
出来の悪い新人と、忙しくて余裕のない先輩の組み合わせで、育成がうまくいくわけがない。
一ヶ月ごとの報告で、新人の育成が遅れていることを知った専務は、決まってこう言うのだ。
目の前にある現実を直視すれば、仕事の覚えの悪い新人と、大量の業務におわれてイライラしている先輩がいるだけだ。
新人が質問しようとすると、先輩はパソコンから顔もあげず「ちょっと待って!」と言い、十分ほど放置されてから、ようやく質問ができる。
これで伸びるわけがない。
(「お前が悪い」と言われるだろうから先に書いておくが、俺はこの問題を認識していたので、質問されたら必ず手を止めてその場で話を聞いていた)
育成がうまくいかないのは、こうした現状が原因だと説明し、業務量を調整できないかと相談すると、「だから今採用をしている」と返される。
そこまでにかかった手間も時間もパーになり、また次の出来の悪い新人を育てるのだ。
中堅も1人辞めているので、今度は5人で業務を回しながら育成もしなければならない。
過去に違う部署の新卒に似た事例があって、親と相談して医者に連れて行ったところ、発達障害の診断が下されたらしい。
これが成功体験となって、ミスを繰り返す出来の悪い新人がきたときは「発達障害」のラベルを貼ればいいということになってしまったようだ。
つまり、専務は、『有能な人材を採用できない』『新人を育成できる環境を用意できない』
という管理職としての無能を、すべて「採用した新人がたまたま発達障害だった」という言い訳で乗り越えてきたのだ。
出来の悪い新人が「自分は発達障害なので仕事が覚えられない」といいわけをしたのではない。
無能な専務が「発達障害を隠して入社した新人のせいで自分が苦労している」といいわけをしているのだ。
「発達障害について調べたので詳しい」と自慢げに言うが、調べた情報のなかには「医者でもない人間が勝手に診断してはならない」とは書かれていなかったらしい。
結局専務は自分の無能と向き合うことなく、新人が辞め続ける状況のまま、2年が経った。
俺が辞めたときには、中堅2名と新人3名になり、業務の大半を高い金を払って外注業者に委託していた。
せめて1年前に外注業者を使えていれば、少しは違う結果になっていたと思う。
ダイバーシティ大事にしていけ