少しでも本人の理想から外れたりこちらが些細なミスを一つでもしようものなら激怒。泣きながら平謝りしても「そんなに謝るのは狡い」と怒られて延々と詰られる。
普段の振る舞いはすべて自分が最優先。デートのドタキャンも遅刻も当たり前。無連絡で待ち合わせ場所にいないのは日常茶飯事。レストランを予約していようがお構いなし。ドタキャンだろうと遅刻だろうと全く謝らない。「わざわざ会ってやるのに」が口癖だった。会ってないのに。
夜遅くに今から来いとか仕事中でも電話は3コール以内に出ろとか物理的に無理な要求だろうと「自分ならやる。そんなことで音を上げるお前がおかしい」と何度も言われた。だから相手の要求を叶えるために自分のことを放っておいたら「そこまでしろとは言ってない」と怒られた。
どうしても欲しいと言われて身の丈に合わない高額なプレゼントをした。就職してから貯めたなけなしの貯金をはたいてまだお金が足りず、2か月食費を削って6kg痩せた。人生で最も成功したダイエットだった。
友人とも疎遠になった。お金がなくなってご祝儀が包めず親友の結婚式を欠席した。親友には電話で謝ればよかったのに精神が参っていたのかそんなことを考えることもできなかった。親友はSNSで遠回しに自分を指して常識がない人間だと言っていた。完全に謝るタイミングを見失ってその親友とは今も連絡が絶えたままになった。本当に申し訳ないことをした。
他にもいろいろとひどいことはあったけど、身バレしそうなのでこれくらいにしておく。
ある日突然、動くことができなくなった。布団から出れなくなった。仕事も生活もなにもできなくなった。友人に病院に行けと言われた。即鬱病と診断された。
このままだと死ぬと思って目が覚めた。別れるのも大変でシャレにならない事件も起きたが弁護士を立てて完全に縁を切れた。
別れた後、一度も恋人は作っていない。異性は信用できなくなった。新しい恋人を作って上書きして幸せになるのが一番なのかもしれないけど、異性と関わるのが怖くなった。
精神が壊れる前はもう少し活発な人間だったと思うけど、こうなる前はどうしていたかもわからなくなった。きっと一生独身のままだと思う。
不安感と親への申し訳なさだけが残っている。正月に帰省したら早く結婚しろと言われるんだろう。毎年生返事で濁しているけど、何年も前に別れた恋人のことを親に1から説明する気力も湧かない。
きっとウチは自分で末代だ。普通に生きていれば子供を持つ歳になって、改めて親が偉大だと思った。かつては自分も両親のように子供を育てたいと思っていたけど、もう無理そうだ。両親には本当に申し訳ない。
いい歳になって初めてできた恋人だった。ずっと大事にしたいから自分を捨てて尽くしたけど、元恋人が求めていたのはパートナーではなく奴隷だった。
何年もたった今でも元恋人に言われた言葉を思い出して震える。やっぱり自分が間違ってたんじゃないかって今でも不安になる。
今でも元恋人のSNSをこっそり見に行ってしまう。見たくないのに、早く忘れて記憶の中から消し去りたいのに見てしまう。
薬の処方は今でも続いている。きっと自分は一生相手を恨んだままやり場のない怒りと近しい人間への申し訳なさを抱えて生きていくのだろう。