俺も最初見た時は笑い飛ばしたよ「あの?今見た映画の話?理解してます?真逆ですよ?皆のために犠牲になるとか知ったことかって映画ですよ?」と思った。
でも、1日経ってよくよく考えるとありゃあなかなかにおどろおどろしい代物じゃないかと思い至ったわけだよ。
我々はあの映画を見終わってスッキリしながら「さあ、同調圧力を誇示する奴らにそっぽ向いてやろうぜ」ってテレビの前で肩で風切ってたわけさ。
そうは言っても結局はスクリーンの中の世界に感情移入してただけで、ヤクザ映画のハラキリやボクサー映画の殴り合いに共感した所で、自分らの体には何の傷もない状態でさもやり遂げた気になってるアレだったのだな。
しかしあのCMのせいで一気に我々はさっきまで自分らが頭の中で偉そうに講釈垂れてた「功利主義と個人主義の天秤にどう重さを振り分けるか」という命題の秤に自分たちが乗せられたのさ。
昨日まで「アヌビス神の御心において、そなたの魂を見定めんムニャムニャ」とやってた自分の心臓が今まさに死神の掲げる天秤に載せられたってこと。
こりゃあ本当に恐ろしいもんだ。
海で呑気に泳いでたところをいきなり七人ミサキに足を捕まれ深海の底まで引きずり込まれたようじゃないか。
TV局の奴ら、ついさっきまでやいのやいの「世の中どうにかなるんだしさ、やっぱ人間自分が納得する生き方すべきだよね」とSNSでほざいてた我々に対して「じゃあ、未曾有の危機の前に個人を優先して本当に良いんですね?」って全員にインタビューしかけてきやがった。
自分たちは絶対的オフェンスだと思ってたもんだから受けの用意なんて全く無しさ。
たとえば議員様が官僚の不手際でカバンにペラ1枚の原稿もなく国会に出てきてしまったと思ってみればいい。
どうにもなりっこない。
適当に煽ってすかして時間を稼いで最後には逃げるぐらいしかできやしないよ。
そんなことをね、完全に油断しきった年末年始連休の大抵の人間にとっての最終日にアイツラやってきたんだ。
とんでもないと思わんかね?
天気の子なんていうジュブナイルなセカイ系のB面を今どき流してみせるような裏の裏以前に時代の遥か後方からメガホンで叫んでるような作品が、一瞬で最先端に追いつかせやがった。
頭が悪いフリしてみせながらうまく人を転がすのが上手い。
一番むかつくてインテリってのはこういうもんだね。
カマトトぶっておどけてみせて煽って怒らせ馬鹿にさせ最後にはこっちが馬鹿を見てるのをビルの上から馬鹿にしてんのさ。
おっそろしい連中だよ本当。
あのCMがどういうCMかわからんやで