昇龍拳を使えるようになった。
ゲームやアニメの世界の技を使えるようになるのは誰もが子どもの頃に憧れた現象だろう。家の誰もいないところでこっそりとかめはめ波を何度も練習した経験は誰にもある。ある日急にスプーンを曲げることができるのではないかとスプーンを持って優しく力を加えて筋力でないなにかの力で曲げようとした経験もあるだろう。
そんな中、ついに僕は成し遂げてしまった。ゲームの世界の技である、昇龍拳を使えるようになってしまったのだ。自分の部屋で何気なく試してみたら出来てしまった。奇跡だ。
具体的にどうやるのかというと、まず腹の前でしっかりと拳を握りしめる。そして大きな声で「しょーりゅーけんーーーーー!!!」と叫び、拳をあげると同時に一気に飛ぶのだ。恐らくゲームのキャラクターが実際にやっているほどの迫力で跳ね上がることが出来た。ちなみに波動拳も事前に何度か試していたのだが、それは無理だった。竜巻旋風脚も試そうとしたが、試そうとしようと思いやり方を想像した時に、ちょっと怖くなってやめた。
僕は晴れた空の下、外へ出た。せっかく覚えた技だ。何かの役に立てなければもったいない。少し外をウロウロして何かないか探すことにした。
と、その前に家に車があることに気づいた。そういえば昇龍拳は車を破壊するのに効率がいい。一度試してみても良いのかもしれない。
車の前に立ち、胸の前で拳を合わせた。深く息を吐く。そして右の拳を腹の前にゆっくりと移動させて力を込める。そして思った。これは本当に大丈夫なのかと。人間の拳で車を破壊することができるのだろうかと。
いや、でも、これは単なる拳でなく、あくまでも昇龍拳だ。言ってみればかめはめ波や波動拳をぶつけるのと全く同じ。人間の力ではない。奇跡が生んだ力だ。むしろ大丈夫なのかと心配するのは車が壊れて使い物になってしまわないかの方だ。全く問題ない。僕は躊躇するのをやめ、昇龍拳をぶっ放した。
その後、家から出てしばらく歩いていた。家の前には川が流れている。その土手に登って歩いていた。天気もよくとてもすがすがしい。しかし右手は擦り傷ができていて痛い。やはりちょっと車を攻撃する時に躊躇してしまい、車とこすって擦り傷を負ってしまった。多分思い切り拳をぶつけても問題はなかったのだが、つい常人のように車に拳を思い切りぶつけて悶絶する姿を浮かべてしまったのだ。このような素晴らしい力を手に入れたのに恥ずかしい。自分の心の弱さのせいでこんな傷を負ってしまい恥ずかしくなった。なんとなくすれ違う家族の顔をまともに見ることも出来ずわざとらしく目を背けた。子どもがこちらを見た気がしたので擦り傷もそっと隠した。
次は絶対失敗しない。恐らく歩いているうちに不良共に絡まれている誰かを見つけることになるだろう。僕はさっそうと彼らの方に手を乗せてひっぱり、「おい、やめろ」という。そして昇龍拳一発で一瞬のうちに倒す。不良の人数分昇龍拳を引き続き行い、そして全員倒す。絡まれていた人もアニメのような出来事に驚き、目を丸くしてその場に立ち尽くすだろう。あっという間のことのため気がつくと僕はもう去っていていなくなっている。
その後ふと我に返ったその絡まれていた人はスマホで家族なり彼女なり、とにかく親しい人に連絡する。LINEなどではない。すぐ読んでもらえるかどうか分からないツールでは今感じているその感情をありのまま伝えられるかどうかはわからない。電話でないとだめなのだ。放った言葉が、ダイレクトに、一瞬で相手に伝わらなければならない。
そしてきっとテレビで話題になる。その人がSNSに投稿した内容は万単位でいいねがつくだろう。だって昇龍拳なのだから。信じられない出来ことを目の前で目撃したのだから。
そんなことを考えながらニヤニヤしていたら向こう側から歩いてきた女子高校生たちがこちらを見ているような気がしたためやめようと思ったのだがやめられなくてニヤニヤし続けていた。しかしはずかしいので右手で口をそっと覆って表情を見えにくくなるようにした。多分これで大丈夫だろう。
ふと時計を見ると今15:30だった。そういえばおやつを食べ忘れていた。たしか賞味期限が今日の15時までだったような記憶がある。機能も確認したから間違いない。僕はそのままUターンして帰ることにした。なんとなく先程の女子高生たちの後ろをついていくような形で帰ることになるのは不審者っぽくて居心地が悪かったのだが、まあしかたがない。200円もするやつなので。
🔥✊🔥 ||(👁👄👁)🤘ウィーりゅーけーーーーーん🐉
マスクしろ
蛇をりゅうと見間違えるとはな。点に登って龍となる。つまりそいつは蛇だ