2020-05-17

[] #85-4「幻の10話」

≪ 前

話はヴァリオリが誕生した、ちょっと前に遡る。

「おい、フォンさん! お上はいつになったら企画を持ってくるんだ?」

「そろそろ取り掛からないと、放送シーズンに間に合いませんよ」

父とシューゴさんは焦っていた。

当時のハテアニは自転車操業でやっていたのに、企画が全く来なかったからだ。

企画がなければアニメを作りようがなく、漕げなくなった自転車は倒れるしかない。

フリーランスアニメーターとの契約場合によっては様々な専門スタジオに依頼する必要があります。その他スタッフスケジュールの確保も早めにしておかないと」

「えーと、それがですね……」

フォンさんも気になって、上役の動向を調べていた。

すると、どうやら企画を探す素振りすらなかったらしい。

「はあ!? どういうこった」

「やっぱり……『女子ダベ』が大コケしたせいですかね」

女子ダベ』は、週刊ダイアリーにて連載されていた日常系四コマ漫画(全4巻)。

女子がダベる(喋る)」ので『女子ダベ』と略されているだけで、方言女子が出てくるわけではない。

そんな知る人ぞ知る漫画は、なぜか大額を投じてアニメ化された。

当時その手のジャンル流行っていたから、企画を手に入れた上役は「いける」と思ったのかもしれない。

或いは熱烈なファンだったのか。

アニメーター達の努力もあり人気はそこそこで終わるも、それでも予算に見合った成果とはいえなかった。

有り体に言えば大赤字だ。

その結果を顧みて、親会社スタジオ解体するつもりだったらしい。

「それは些か理不尽じゃないですか? こっちは言われたとおりの予算で過不足なく作ったのに」

視聴者から評価も悪くないんだぞ。それで大赤字だってんなら親会社の配分ミスだろ!」

だが父たちは不服だった。

この件はスタジオ側に落ち度がなかったからだ。

「ワタシもスポンサーたくさん募るとか、製作委員会とか作ろうって言ったんですが、“それだと社員給料を払えなくなる”って……」

「大赤字になってちゃ意味ねーだろ。リスクヘッジ込みでアニメ企画もってこいよ!」

しかし、いくら不平不満を述べても好転はしない。

子会社スタジオで働く、雇われアニメーター達にできることは少なかった。

そんなことは父たちだって重々承知だ。

では、“できること”とは何か。

事態の深刻さに対し、回答はシンプルだった。

「こうなったら、我々で企画を用意しましょう」

上が企画を持ってこないのなら、自分たち企画を用意してアニメを作ればいい。

結局はアニメを作ることが最大の存在証明なのである

しか原作不足の昨今、上がOKしてくれるとは思えません。原作を買うのだって金がいりますし」

「となると……オリジナル作品かよ」

こうして生まれたのが『ヴァリアブルオリジナル』、通称“ヴァリオリ”だった。

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          • 久しぶりにリアルタイムで見たわ

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              • ≪ 前 脚本だけではない。 “幻の10話”に携わったスタッフは、そのほとんどが聞き馴染みのない者だった。 つまりシューゴさんなしで、代理スタッフで構成されているってことだ。 ...

                • ≪ 前 「もし、あの“幻の10話”に、オレの指摘したリスクよりも大きなリターンがあるなら、封殺されるのはオレだったろう。オレのことをよく思っていない上役は、当時からたくさん...

                  • 何度も言い続けてきたけど一向にやめないね みんなつまんないって言ってるし いい加減やめたほうがいいって

                  • ≪ 前 「まあオレが何も言わなくても、放送局か広告代理店にマトモな奴が一人でもいれば、そこでストップはかかっていただろうがな」 「でも今こそ向き合ってみませんか、この“幻...

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