脚本だけではない。
“幻の10話”に携わったスタッフは、そのほとんどが聞き馴染みのない者だった。
つまりシューゴさんなしの、代理スタッフで構成されているってことだ。
「珍しく休みをもらってな。まあ、有給を消費させたかったんだろうが」
それはシューゴ監督の負担を減らすことは勿論、彼なしでクオリティを保障できるかという試みでもあった。
本作の要がシューゴさんであることは確かだが、同時にリスキーな人物であることも確かだったからだ。
彼の気難しい性格と、遠慮知らずな言動は、過去の公式ブログやインタビューなどで遺憾なく発揮されている。
ヴァリオリという知的財産を太く長くしていきたい企業にとって、このまま彼に依存して制作し続けることは避けたかったんだ。
しかし、その試みが失敗に終わったことは“結果”が何よりも物語っている。
「で、休み明けに見せられた資料が“このザマ”ってわけだ。そりゃ反対するだろ」
そういう視点で資料を深く読み込んでみると、確かに歪な点が散見された。
「例えば、この新キャラクターだ。なんだよ、この宝塚みたいなデザイン」
インディーズバンドのライブハウスに、一人だけトップアーティストが参加しているような浮きっぷりだ。
「もし大衆にウケるとしても、誰が描くんだよ。主要人物だから、これからずっと描くんだぞ? こんな線の多いキャラ動かせんのか? アニメは作画じゃなくて動画なんだよ」
メインの視聴者層を無視して、変に凝ったテーマを描こうとしている。
「だから言ったんだよ。“別にオレなしで作っても構わんが、この出来じゃあ炎上するぞ”って」
むしろやる気に満ち溢れていたことは、資料の書き込みを見れば分かる。
ただ、それがどうにも空回っている印象だった。
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