ここからが本番だ。
それは誰もが知るところだが、だからといって良好なスタートダッシュを切れるとは限らない。
「『女子ダベ』の時は頼んでもないのに大金出してきて、こっちが頼んだら、これだけかよ……」
“頭を抱える”というのは慣用句だが、人間はそのような状況になると実際に頭を抱えた体勢になるらしい。
「それでも大分ねばったんですよ」
「スポンサーが募れない以上、出せる予算はそれが限度なんだとか」
「契約、依頼できる奴は?」
「信頼できるアニメーターは、ほとんど他社に持っていかれてます」
「まあ時期が時期だからな……」
アニメ作りに限ったことではなく、人が資本の労働とはそういうものだ。
そんなことができるのは未来の猫型ロボットか、売名目的のセレブだけだろう。
“形になっている”かどうかだ。
しかし、それですら今のシューゴさんには高く険しい道のりだった。
これらの条件で到達するのは無茶振りもいいところだ。
「……癪だが仕方ない。やれることはやろう」
それでも走り続けるしかなかった。
とにかく省けるところは省かないと間に合わない。
シューゴさんは己の流儀をかなぐり捨て、自身の英知と技術をフル活用する他なかった。
≪ 前 すぐさま父たちは急ごしらえの企画を携え、親会社に乗り込んだ。 「オリジナル作品~? ちょっとバクチが過ぎるんじゃないのぉ?」 「ビジネスってのは大なり小なりギャン...
≪ 前 話はヴァリオリが誕生した、ちょっと前に遡る。 「おい、フォンさん! お上はいつになったら企画を持ってくるんだ?」 「そろそろ取り掛からないと、放送シーズンに間に合...
≪ 前 それから数日後。 「それでは第○○回、『チキチキ! ヴァリオリ制作委員会』の会議を始めます」 総務である父の宣言と同時に、その会議は厳かに再開された。 「ズズズッ...
≪ 前 「……“本当の10話”? ちょっと何言ってるか分からねーな」 慌ててシューゴさんは取り繕って見せるが、とぼけているのは明白だった。 「“本当の10話”じゃなくて“幻の10...
“激動の時代”という文言は、さしずめボジョレー・ヌーボーのようなものだ。 ティーンエイジャーの俺や、その時代に実感の伴わない人間にとっては「10年に1度の出来」という評価ほ...
久しぶりにリアルタイムで冒険見たわ
≪ 前 世に跋扈するアニメの多くは、その製作の全てを一つの会社が行っているわけではない。 クレジットを見れば誰にだって分かる(俺は一度もマトモに見たことはないが)。 背景...
≪ 前 絵の部分においても徹底された。 キャラクターデザインは線を少なくし、左右対称が基本。 背景を減らすため、キャラクターのアップを増やして誤魔化した。 作画ミスが起き...
久しぶりにリアルタイムで見たわ
≪ 前 こうして何とかヴァリオリは「とりあえず見れる作品」として世に出た。 この国で初めてアニメが放送されてから、脈々と受け継がれてきたリミテッド・アニメーションの粋を集...
≪ 前 そこからは、多くの有名コンテンツが辿る道だ。 コミカライズにノベライズ、関連性のないゲームとのコラボなど。 様々なマルチメディア展開がなされ、ヴァリオリは“出せば...
≪ 前 脚本だけではない。 “幻の10話”に携わったスタッフは、そのほとんどが聞き馴染みのない者だった。 つまりシューゴさんなしで、代理スタッフで構成されているってことだ。 ...
≪ 前 「もし、あの“幻の10話”に、オレの指摘したリスクよりも大きなリターンがあるなら、封殺されるのはオレだったろう。オレのことをよく思っていない上役は、当時からたくさん...
何度も言い続けてきたけど一向にやめないね みんなつまんないって言ってるし いい加減やめたほうがいいって
≪ 前 「まあオレが何も言わなくても、放送局か広告代理店にマトモな奴が一人でもいれば、そこでストップはかかっていただろうがな」 「でも今こそ向き合ってみませんか、この“幻...