2020-05-18

[] #85-5「幻の10話」

≪ 前

すぐさま父たちは急ごしらえの企画を携え、親会社に乗り込んだ。

オリジナル作品~? ちょっとバクチが過ぎるんじゃないのぉ?」

ビジネスってのは大なり小なりギャンブルでしょう」

「ワタシたちは、そのギャンブルを楽しめる程度の額でいいんです」

「でも楽しむにしたって、何らかの勝算は欲しいよ?」

分かっていたものの、すぐにイエスとは言ってくれなかった。

「『女子ダベ』の失敗で、こっちもしんどいからね~?」

「確かに赤字だったかもしれませんが、作品の出来は客観的に見て悪くなかったでしょう」

「バズりっぷりも、今期ではトップクラスです」

「でも赤字赤字じゃ~ん?」

それは、そちらの予算の組み方が悪いからだろう。

そう言えたら楽なのだが、下手に機嫌を損ねられては企画が通らない。

気前よく予算を出してもらうには、正論糾弾以外の弁が必要だ。

シューゴさんを留守にさせて正解でしたね」

「ええ、彼なら既に5回はキレてます

担当の気だるそうな喋り方と相まって、父とフォンさんは内心イラ立っていた。

それでも二人は根気よく、詭弁を交えながら説得を試みた。

監督シューゴって人だけど、実績がないじゃん? それでオリジナル作品ともなると、しんどくない?」

シューゴさんは監督としては若手ですが、アニメーターとしてはこの道10年以上のベテランです」

「それに実績なら『女子ダベ』があるじゃないですか。あれだって世間評価自体は高いんです」

不利なことは迂遠表現し、逆に少しでも有利なら大仰にアピールした。

「でも、スポンサーが集まるかなあ?」

その甲斐もあり、上役は予算をどう捻出するのかと、自ら切り出してきた。

そもそも予算を出す出さない」の話をしていたのに、気づけば「どうすれば可能か」という話にもつれ込んでいる。

こうなったら、後ひと押しだ。

父たちは自分たちプラン説明した。

「……つまりですね、予算を抑えつつ一定クオリティを維持できる!」

「儲ければウハウハ、もしコケても痛くない」

難しい説明は省き、とにかくお得であり、損はしないことを強調した。

「要はコスパがいいんです」

コスパ~? そのワードには弱いなあ」

上役が好きそうな言葉を添えることも忘れない。

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記事への反応 -
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        • “激動の時代”という文言は、さしずめボジョレー・ヌーボーのようなものだ。 ティーンエイジャーの俺や、その時代に実感の伴わない人間にとっては「10年に1度の出来」という評価ほ...

  • ≪ 前 こうして何とか説得に成功し、企画を通すことに成功した。 だが、アニメ作りは会議室で起きているわけではない。 ここからが本番だ。 それは誰もが知るところだが、だから...

    • ≪ 前 世に跋扈するアニメの多くは、その製作の全てを一つの会社が行っているわけではない。 クレジットを見れば誰にだって分かる(俺は一度もマトモに見たことはないが)。 背景...

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        • 久しぶりにリアルタイムで見たわ

        • ≪ 前 こうして何とかヴァリオリは「とりあえず見れる作品」として世に出た。 この国で初めてアニメが放送されてから、脈々と受け継がれてきたリミテッド・アニメーションの粋を集...

          • ≪ 前 そこからは、多くの有名コンテンツが辿る道だ。 コミカライズにノベライズ、関連性のないゲームとのコラボなど。 様々なマルチメディア展開がなされ、ヴァリオリは“出せば...

            • ≪ 前 脚本だけではない。 “幻の10話”に携わったスタッフは、そのほとんどが聞き馴染みのない者だった。 つまりシューゴさんなしで、代理スタッフで構成されているってことだ。 ...

              • ≪ 前 「もし、あの“幻の10話”に、オレの指摘したリスクよりも大きなリターンがあるなら、封殺されるのはオレだったろう。オレのことをよく思っていない上役は、当時からたくさん...

                • 何度も言い続けてきたけど一向にやめないね みんなつまんないって言ってるし いい加減やめたほうがいいって

                • ≪ 前 「まあオレが何も言わなくても、放送局か広告代理店にマトモな奴が一人でもいれば、そこでストップはかかっていただろうがな」 「でも今こそ向き合ってみませんか、この“幻...

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