すぐさま父たちは急ごしらえの企画を携え、親会社に乗り込んだ。
「オリジナル作品~? ちょっとバクチが過ぎるんじゃないのぉ?」
「ワタシたちは、そのギャンブルを楽しめる程度の額でいいんです」
「でも楽しむにしたって、何らかの勝算は欲しいよ?」
「確かに赤字だったかもしれませんが、作品の出来は客観的に見て悪くなかったでしょう」
「バズりっぷりも、今期ではトップクラスです」
そう言えたら楽なのだが、下手に機嫌を損ねられては企画が通らない。
気前よく予算を出してもらうには、正論や糾弾以外の弁が必要だ。
「シューゴさんを留守にさせて正解でしたね」
「ええ、彼なら既に5回はキレてます」
担当の気だるそうな喋り方と相まって、父とフォンさんは内心イラ立っていた。
それでも二人は根気よく、詭弁を交えながら説得を試みた。
「監督のシューゴって人だけど、実績がないじゃん? それでオリジナル作品ともなると、しんどくない?」
「シューゴさんは監督としては若手ですが、アニメーターとしてはこの道10年以上のベテランです」
「それに実績なら『女子ダベ』があるじゃないですか。あれだって世間の評価自体は高いんです」
不利なことは迂遠に表現し、逆に少しでも有利なら大仰にアピールした。
「でも、スポンサーが集まるかなあ?」
その甲斐もあり、上役は予算をどう捻出するのかと、自ら切り出してきた。
そもそも「予算を出す出さない」の話をしていたのに、気づけば「どうすれば可能か」という話にもつれ込んでいる。
こうなったら、後ひと押しだ。
「……つまりですね、予算を抑えつつ一定のクオリティを維持できる!」
難しい説明は省き、とにかくお得であり、損はしないことを強調した。
「要はコスパがいいんです」
上役が好きそうな言葉を添えることも忘れない。
≪ 前 話はヴァリオリが誕生した、ちょっと前に遡る。 「おい、フォンさん! お上はいつになったら企画を持ってくるんだ?」 「そろそろ取り掛からないと、放送シーズンに間に合...
≪ 前 それから数日後。 「それでは第○○回、『チキチキ! ヴァリオリ制作委員会』の会議を始めます」 総務である父の宣言と同時に、その会議は厳かに再開された。 「ズズズッ...
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“激動の時代”という文言は、さしずめボジョレー・ヌーボーのようなものだ。 ティーンエイジャーの俺や、その時代に実感の伴わない人間にとっては「10年に1度の出来」という評価ほ...
久しぶりにリアルタイムで冒険見たわ
≪ 前 こうして何とか説得に成功し、企画を通すことに成功した。 だが、アニメ作りは会議室で起きているわけではない。 ここからが本番だ。 それは誰もが知るところだが、だから...
≪ 前 世に跋扈するアニメの多くは、その製作の全てを一つの会社が行っているわけではない。 クレジットを見れば誰にだって分かる(俺は一度もマトモに見たことはないが)。 背景...
≪ 前 絵の部分においても徹底された。 キャラクターデザインは線を少なくし、左右対称が基本。 背景を減らすため、キャラクターのアップを増やして誤魔化した。 作画ミスが起き...
久しぶりにリアルタイムで見たわ
≪ 前 こうして何とかヴァリオリは「とりあえず見れる作品」として世に出た。 この国で初めてアニメが放送されてから、脈々と受け継がれてきたリミテッド・アニメーションの粋を集...
≪ 前 そこからは、多くの有名コンテンツが辿る道だ。 コミカライズにノベライズ、関連性のないゲームとのコラボなど。 様々なマルチメディア展開がなされ、ヴァリオリは“出せば...
≪ 前 脚本だけではない。 “幻の10話”に携わったスタッフは、そのほとんどが聞き馴染みのない者だった。 つまりシューゴさんなしで、代理スタッフで構成されているってことだ。 ...
≪ 前 「もし、あの“幻の10話”に、オレの指摘したリスクよりも大きなリターンがあるなら、封殺されるのはオレだったろう。オレのことをよく思っていない上役は、当時からたくさん...
何度も言い続けてきたけど一向にやめないね みんなつまんないって言ってるし いい加減やめたほうがいいって
≪ 前 「まあオレが何も言わなくても、放送局か広告代理店にマトモな奴が一人でもいれば、そこでストップはかかっていただろうがな」 「でも今こそ向き合ってみませんか、この“幻...