それから数日後。
「それでは第○○回、『チキチキ! ヴァリオリ制作委員会』の会議を始めます」
「ズズズッ」
「ジュルジュル」
「フーッ……フーッ…………フーッ!」
談合室に集まったスタッフたちは、拍手の代わりにコーヒーをすすって応える。
前回の反省点を活かし、今回は昼食後のブレイクタイムに行われていたんだ。
「フーッ……なあ、いつも思うんだが、砂糖入れすぎじゃないか? フォンさん」
フォンさんの前には、フロストシュガー入りの小袋が大量に開けられていた。
「ふっ、何らかのフィードバックを期待するなら、俺はエナジードリンクでいいな……フーッ」
「エナジードリンクだって、ほとんどカフェインと砂糖がメインでしょ」
「だが煩わしくない」
彼も黒い飲み物は好きではない。
それでも体が欲するから嫌でも飲んでいる。
必須ではないし、好きでもない。
ないならないで構わないが、あるならば漫然と求める。
「では飲みながらでいいので聞いてください。三回目となるヴァリオリの完全版制作について……」
「前回の会議では、三回目となるヴァリオリの完全版制作において、特典映像として“幻の10話”を追加するかどうかで話し合いました」
それでも“幻の10話”と聞くと、室内は途端にピリついた。
「……そこで情報共有のため、今回は当エピソードについて資料をまとめてきました。お手元の資料を御覧ください」
スタッフたちは言われるまま、“幻の10話”に関する資料を読み始める。
中には絵コンテやキャラクターデザインなどがまとめられていた。
「“お手元の資料を”……はんっ、一度は言ってみたいセリフだ」
シューゴさん含む古参スタッフたちは、まるでパラパラ漫画のように読み進めているが、新人スタッフにとっては興味深いものばかりだった。
ヴァリオリの制作には、これまで脚本と呼べるようなものがなかったからだ。
≪ 前 「……“本当の10話”? ちょっと何言ってるか分からねーな」 慌ててシューゴさんは取り繕って見せるが、とぼけているのは明白だった。 「“本当の10話”じゃなくて“幻の10...
“激動の時代”という文言は、さしずめボジョレー・ヌーボーのようなものだ。 ティーンエイジャーの俺や、その時代に実感の伴わない人間にとっては「10年に1度の出来」という評価ほ...
久しぶりにリアルタイムで冒険見たわ
≪ 前 話はヴァリオリが誕生した、ちょっと前に遡る。 「おい、フォンさん! お上はいつになったら企画を持ってくるんだ?」 「そろそろ取り掛からないと、放送シーズンに間に合...
≪ 前 すぐさま父たちは急ごしらえの企画を携え、親会社に乗り込んだ。 「オリジナル作品~? ちょっとバクチが過ぎるんじゃないのぉ?」 「ビジネスってのは大なり小なりギャン...
≪ 前 こうして何とか説得に成功し、企画を通すことに成功した。 だが、アニメ作りは会議室で起きているわけではない。 ここからが本番だ。 それは誰もが知るところだが、だから...
≪ 前 世に跋扈するアニメの多くは、その製作の全てを一つの会社が行っているわけではない。 クレジットを見れば誰にだって分かる(俺は一度もマトモに見たことはないが)。 背景...
≪ 前 絵の部分においても徹底された。 キャラクターデザインは線を少なくし、左右対称が基本。 背景を減らすため、キャラクターのアップを増やして誤魔化した。 作画ミスが起き...
久しぶりにリアルタイムで見たわ
≪ 前 こうして何とかヴァリオリは「とりあえず見れる作品」として世に出た。 この国で初めてアニメが放送されてから、脈々と受け継がれてきたリミテッド・アニメーションの粋を集...
≪ 前 そこからは、多くの有名コンテンツが辿る道だ。 コミカライズにノベライズ、関連性のないゲームとのコラボなど。 様々なマルチメディア展開がなされ、ヴァリオリは“出せば...
≪ 前 脚本だけではない。 “幻の10話”に携わったスタッフは、そのほとんどが聞き馴染みのない者だった。 つまりシューゴさんなしで、代理スタッフで構成されているってことだ。 ...
≪ 前 「もし、あの“幻の10話”に、オレの指摘したリスクよりも大きなリターンがあるなら、封殺されるのはオレだったろう。オレのことをよく思っていない上役は、当時からたくさん...
何度も言い続けてきたけど一向にやめないね みんなつまんないって言ってるし いい加減やめたほうがいいって
≪ 前 「まあオレが何も言わなくても、放送局か広告代理店にマトモな奴が一人でもいれば、そこでストップはかかっていただろうがな」 「でも今こそ向き合ってみませんか、この“幻...