生徒たちの知らないところで、何かが起こっている。
俺たちはルビイ先生の周辺を調べることにした。
調べるべき場所の見当は、既についている。
俺たち生徒がよく知らない場所、あまり利用しない(できない)場所が特に怪しい。
そういう場所は、逆に先生や大人たちがよく利用する場所だからだ。
花壇から数メートル離れた先にある窓、そこから見える職員室の風景こそが目的だ。
近くには大きい茂みがあり、数人が体を隠せる。
「ねえ、こんなにコソコソする必要ある? 茂みのせいで体がカユくなるんだけど」
ブリー君は不満を漏らしつつも、なんだかんだ付き合ってくれる。
どうやら、俺たちのクラスに随分と馴染んできたようだ。
「先生たちに話を聞いたりだとか、他にもっと真っ当なやり方があるんじゃ?」
「ブリー君、それは期待できない。先生たちが包み隠さず話してくれると思う?」
「……確かにそうだね」
どうも大人の世界ってのは、子供に隠しておきたいものがたくさんあるらしい。
赤ちゃんはどうやって生まれるか、サンタの正体、あの人は今―――
それらは尤もらしい理由のものから、大人の一方的な理屈で見せないようにしたり、見せるにしても都合のいい部分だけ切り取ったりなど色々だ。
いずれにしろ、「見せろ」と言われて素直に見せてくれるものじゃないだろう。
ムカつくのは、それで子供たちが納得すると思っているところだ。
だけど、俺たちはそこまでノロマじゃない。
普段はその気がないだけで、大人の目を盗めば見れることくらい分かっているんだ。
「で、どんな感じ? ルビイ先生に何かいつもと違うところはある?」
「うーん……忙しそうではあるかな」
だけど、これといって気になる点は見えてこない。
アテが外れたのだろうか。
「ぼくにも見せて」
何の成果も得られない張り込みが予想以上に退屈だったのだろう。
そうしてブリー君が望遠鏡を覗いたとき、どうやら何かに気づいたようだった。
「何だ!? 何か見つけた?」
「いや、ごめん、気のせいかも」
「なんだよ、ビックリした」
「ルビイ先生が特に忙しそうに見えたけど……単なる誤差だと思う」
結局、俺たちの張り込みは大した成果を得られずに終わった。
俺たちのいた場所からだと職員室内の音は聞こえないので、別の場所から聞き耳をたててもらっていたんだ。
こちらが特に何もなかったのだから、タオナケ側も大した情報はない。
そう予想して何気なく尋ねた。
だけど、どうにも反応が重苦しい。
俺たちの仲間の一人であるミミセンは、聴力が非常に高い。
職員室内の音を鮮明に聞き取れたのだろう。
そしてこれは、かなり“嫌な音”を聴いたときの反応だ。
「久々に聴いたよ。あんな酷い雑音……」
「一体、何が聴こえたんだ?」
「ルビイ先生、『新・イジメ対策プログラム』導入したの正解でしたねえ。早速、自分のクラスで成果が出たじゃありませんか」
「……そうですね」
「なのに、一人だけ反対している人がいたのは不思議ですよねえ。誰でしたっけ……」
「…………」
「え……私がですか」
「こっちは忙しいんですよ。我々は『新・イジメ対策プログラム』を頭に叩き込まないといけませんからねえ」
「ルビイ先生なら、これくらい出来る余裕はあるでしょう」
「そうですよ。手を抜かないでください。そんなことだから、自分のクラスのイジメ問題に鈍感になるんですよ」
いや、孤立しているだけじゃない。
余計な仕事を押し付けたり、隙あらば嫌味な言葉を捻じ込んだり。
周りのルビイ先生に対する扱いは、酷くゾンザイで悪質だ。
『新・イジメ対策プログラム』とやらを理由に、ルビイ先生を追い込んでいたんだ。
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