2019-02-06

[] #69-2「愚者自覚

≪ 前

冬休みに入る少し前、衣替えが済むかどうかのビミョーな時期。

俺たちのクラス転校生がやってきたところから話は始まる。

「この度、私たちクラスに新しい仲間が増えます。さあ、どうぞ入ってきて」

担任教師のしゃらくさい言い回しと共に、その転校生教室に入ってきた。

第一印象は可もなく、不可もなくって感じだ。

強いて言うなら風貌が若干イモくさくて、身だしなみにはやや無頓着タイプってくらい。

だけど、その後から徐々に、不穏な空気を漂わせてきた。

「ええー、転校生ブリー君です。両親の仕事の都合でこちらに越してきました……はい、どうぞ」

「……」

担任が紹介するが、そのブリー君は何も反応しない。

教室内が、妙な静かさで覆われた。

担任も俺たちも戸惑う。

「あのー、ブリー君?」

先生、『はい、どうぞ』と言われても、どこに座ればいいか分かりません。空いているところを適当に座ってもいいので?」

「え……あ、うん。それでもいいけど、その前にみんなに自己紹介しましょう」

「あ、『はい、どうぞ』ってそういう意味だったんですか」

「うん、そう。じゃあ自己紹介どうぞ」

先生が紹介してくれたのに、ぼくもやるのは二度手間では?」

「う、うーん……そうかもしれないけど、本人から直接言った方がいいかなあって」

自己紹介した方が良かったのなら、先生が紹介する必要はなかったのでは?」

こりゃあ、中々に面倒くさそうな奴が来たな。

俺だけじゃなく、この時みんなそう思った。


…………

それから日経ったが、この転校生の厄介さは俺たちの予想以上だった。

例えば体育の時間など、グループで何かをやる時はそれが顕著だ。

今日ドッジボールをやりまーす。出席番号が偶数の子Aチーム奇数の子はBチームに分かれて」

この時、俺はAチーム

そして転校生ブリー君もAチームだ。

そもそもボールをぶつけるゲームなんて、危ないのに何でやるかなあ。それに、ぼくみたいな球技の苦手な人間まで巻き込んでやらせないでよ。共産主義とか現代遺産なのにさあ」

ブリー君は終始こんな感じでブツブツ文句を垂れる。

だが、ドッジボールは割とみんなが活躍やすゲームだ。

ボールを捕れなくても、内野で避け続けているだけで相手ミスを誘えるし、時間切れに持ち込めば残り人数で勝利に貢献できる。

それが苦手なら外野パスを回して敵を撹乱するだけでもいい。

能力積極性に違いがあっても、誰もがチームの力になれるゲームなんだ。

ボールも柔らかいものを使うから怪我をする方が難しい。

体育でやるスポーツとして鉄板なのは、それなりの理由があるわけだ。

……とドッジボールの良さを俺たちが説明してもなお、ブリー君の調子は変わらない。

「あ~あ、突き指とかしたくないなあ。ボールゴム臭さも気分が悪くなるし」

ゲーム中、ずっとこんな感じなのだから俺たちは気が滅入る。

当然、チームの士気は下がり続ける。

それと同時に、俺たちのブリー君に対する評価も下がり続けることになる。

まさか、こんな形で足を引っ張る人間がいるなんて思ってもみなかった。

俺たちはどんな遊びにおいても、どんな鈍くさい子でも、いないよりはいたほうが良いと思っていたし、楽しいとも思っていた。

だけど「こちら側のどこからでも切れます」が切れないように、何事も例外というものはある。

その例外自分たち身の回りで起きたことは衝撃的だったけど。

次 ≫
記事への反応 -
  • 『この世から失くすべきだけど、絶対に失くせないものって何だろう』 冬休みの宿題で読んだ本に、そんなセリフがあった。 主人公は登場人物に、そして読者に度々そう語りかけてく...

  • ≪ 前 結果、俺のいるAチームは負けた。 勝敗は内野の残り人数で決まったんだけど、Aチームは俺1人で、Bチームは2人だった。 「うーん、惜しかったね」 ブリー君は何の気なしにそう...

    • ≪ 前 ところ変わって某日、学内の会議室。 そこにはPTAの会員や、学校の教員が一同に会していた。 「えー、皆さん、こんばんは。今回は新プログラムの説明をさせていただくため、...

      • ≪ 前 「よお、しばらくぶりだな。マスダ」 俺を呼ぶその声にギクリとする。 聴こえた方に目を向けると、そこにはツクヒがいた。 「お、おお、ツクヒじゃん。久しぶり」 そうだ、...

        • ≪ 前 ツクヒは普段から不機嫌が服を歩いているような人間だったが、この日は特に虫の居所が悪かったようだ。 体調が完全に回復していないのだろうか。 それとも昨日は寝入りが悪...

          • ≪ 前 「あなたたち、何をやっているのか!」 パッと見、ペットボトルを使ったスポーツチャンバラだ。 というより、実質的にその範疇に収まるから、俺たちはこのルールで戦ってい...

            • ≪ 前 生徒たちの知らないところで、何かが起こっている。 俺たちはルビイ先生の周辺を調べることにした。 調べるべき場所の見当は、既についている。 俺たち生徒がよく知らない...

              • ≪ 前 話に出てくるプログラムが具体的にはどんなものかは知らないけど、ロクなもんじゃないことは確かだ。 ルビイ先生はそのプログラムの違和感に気づいて、最初の内は反対してい...

                • ≪ 前 俺たちはミミセンの助言をもとに、『新・イジメ対策プログラム』について調べることにした。 「うげえ、すごい量だな」 タオナケの母がPTA関係者だったこともあり、資料はす...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん