俺たちはミミセンの助言をもとに、『新・イジメ対策プログラム』について調べることにした。
「うげえ、すごい量だな」
タオナケの母がPTA関係者だったこともあり、資料はすぐに手に入った。
想像するだけで吐きそうだ。
「分担して読んでいこう」
そうして資料を読んでいくと改めて分かったけど、プログラムの内容は予想以上にお粗末だった。
イジメのケース、イジメに繋がりそうなことを箇条書きでびっしり。
とにかく、「ここまで徹底すればイジメはなくなるだろう」と片っ端から対策する感じだ。
だけど、それこそがこのプログラムの欠陥でもあった。
「徹底している」と言えば聞こえはいいけど、これでは排水口に蓋をしているのと大して変わらない。
それに加え、合間合間に野暮ったい説教が挟まっていて、こちらの理性を奪っていく内容なのもキツかった。
こんなのをマジになって読んでいたら、そりゃあ先生たちの頭もおかしくなるだろう。
「よし、分かったぞ!」
ミミセンはその隙を見逃さず、一つの解にたどり着いた。
「このプログラム、どうやら僕たちの学校で作られている。使われているのもこの学校だけだ」
「つまり……?」
その日の夜更け、俺たちは学校に忍び込んだ。
「警備員だけど、いま3階に向かったわ。2階には当分こない」
「ルビイ先生は? 確か宿直やらされてただろ」
「疲れてんだな……まあ、動きやすくなるし好都合だ」
「よし、開けてくれ。ドッペル」
仲間の一人であるドッペルは隠密行動に優れる。
特に変装は骨身に染みていて、俺たちですら元の姿がどんなのかは自信がない。
そんなドッペルなら、関係者を装って鍵を拝借することも可能なのさ。
「ど、どうぞ」
こうして俺たちはパソコン室、その奥にある部屋に入った。
そこに設置された、大人だけが使えるメインコンピューターが目的だ。
「よし、ミミセン。パスワードを頼む」
「任せて。『P』、『A』、『S』、『S』、『W』、『O』、『R』、『D』……よし、開いたよ」
これでプログラムは俺たちの手の平だ。
「さあて、どうしてやろうか」
なんて如何にもなセリフを口走ってみたが、既にやることは決めている。
結局のところ、イジメそのものを失くすことが、この『新・イジメ対策プログラム』を壊すベストな方法なんだ。
だから、このプログラムを逆に利用して、そのことを大人たちに分からせてやろう。
俺たちは『新・イジメ対策プログラム』の内容を“ちょっとだけ修正”した。
それから程なくして、この学校からイジメはなくなり、。プログラムは“見直し”という事実上の廃止が決定されたんだ。
これにより肩の荷が下りたルビイ先生は以前の調子を取り戻した。
今回の件に関わっていた大人たちまで、まるで憑き物が落ちたように元に戻ったらしい。
「ルビイ先生、今回の件は本当にすみませんでした。あのプログラムが取り下げられて、自分たちも我に返りましたよ」
「仕方ありません。心身共に疲弊しやすい職業です。魔がさしてしまうこともあるでしょう」
「うむ、そうですな。“我々プログラムの被害者”は今回のことを糧にしていきましょう」
「……まあ、今回は“そういうこと”でもいいでしょう」
「……というわけで、俺たちの学校からイジメはなくなったってわけさ」
俺は自慢げに、兄貴にその話をした。
「ふーん……そりゃすごい。ノーベル平和賞として、はちみつきんかんのど飴を進呈しよう」
だけど反応はイマイチ薄くて、褒めてはいるけど気持ちはまるで入ってない。
俺の話を信じていないのか、あんまり興味がないのか、学校の課題で忙しいからなのか。
「欲しがりだな……じゃあ、一つだけ聞こうか」
リアクションに納得のいかない俺に、兄貴は渋々といった感じで質問をした。
「お前たちが“どのような修正をしたのか”……そこを説明していないぞ」
「聞いて驚くなよ? ズバリ……プログラムから『イジメって言葉を消した』のさ!」
「……は?」
兄貴ですら予想外だったらしく、呆気にとられている。
「みんな『イジメ』って言葉があるから過剰反応して、物事を冷静に見れなくなる。つまり『イジメ』って言葉を使わなければいいんだよ。だからプログラムからその言葉を全部消して、他の適当な言葉で補った」
「……なあ、それってイジメを別の言葉に置き換えただけで、イジメそのものは無くなってないんじゃないか」
「兄貴、何言ってんだよ。イジメって言葉を無くせば、イジメだと思わなくなるってことだから、イジメもなくなるんだよ」
そう力説したけど、兄貴はずっと冷めた態度だった。
「はいはい、分かった分かった。弟の成長を実感できて、兄の俺も鼻が高いよ。のど飴全部やるから黙ってろ」
どうやらこの方法が世界に浸透するのは、もうしばらく先になりそうだ。
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