2019-02-14

[] #69-10愚者自覚

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俺たちはミミセンの助言をもとに、『新・イジメ対策プログラム』について調べることにした。

「うげえ、すごい量だな」

タオナケの母がPTA関係者だったこともあり、資料はすぐに手に入った。

「僕たちの使っている教科書より分厚いね

これを先生たちは従来の仕事をしつつ読み込んでいるわけか。

想像するだけで吐きそうだ。

「分担して読んでいこう」

そうして資料を読んでいくと改めて分かったけど、プログラムの内容は予想以上にお粗末だった。

まるで夏休み最後の日にやった自由研究みたいだ。

イジメのケース、イジメに繋がりそうなことを箇条書きでびっしり

少しでも怪しいと思えば即やめさせて厳重注意義務付け。

とにかく、「ここまで徹底すればイジメはなくなるだろう」と片っ端から対策する感じだ。

だけど、それこそがこのプログラムの欠陥でもあった。

「徹底している」と言えば聞こえはいいけど、これでは排水口に蓋をしているのと大して変わらない。

それに加え、合間合間に野暮ったい説教が挟まっていて、こちらの理性を奪っていく内容なのもキツかった。

こんなのをマジになって読んでいたら、そりゃあ先生たちの頭もおかしくなるだろう。

「よし、分かったぞ!」

ミミセンはその隙を見逃さず、一つの解にたどり着いた。

「このプログラム、どうやら僕たちの学校で作られている。使われているのもこの学校だけだ」

「つまり……?」

「このプログラムに直接割り込む。その余地は大いにある」


…………

その日の夜更け、俺たちは学校に忍び込んだ。

警備員だけど、いま3階に向かったわ。2階には当分こない」

「ルビイ先生は? 確か宿直やらされてただろ」

先生だけど、布団に入って眠ってしまったわ」

「疲れてんだな……まあ、動きやすくなるし好都合だ」

「よし、開けてくれ。ドッペル」

仲間の一人であるドッペルは隠密行動に優れる。

特に変装骨身に染みていて、俺たちですら元の姿がどんなのかは自信がない。

そんなドッペルなら、関係者を装って鍵を拝借することも可能なのさ。

「ど、どうぞ」

こうして俺たちはパソコン室、その奥にある部屋に入った。

そこに設置された、大人けが使えるメインコピューター目的だ。

「よし、ミミセン。パスワードを頼む」

「任せて。『P』、『A』、『S』、『S』、『W』、『O』、『R』、『D』……よし、開いたよ」

これでプログラムは俺たちの手の平だ。

「さあて、どうしてやろうか」

なんて如何にもなセリフを口走ってみたが、既にやることは決めている。

結局のところ、イジメのものを失くすことが、この『新・イジメ対策プログラム』を壊すベスト方法なんだ。

から、このプログラムを逆に利用して、そのことを大人たちに分からせてやろう。


…………

俺たちは『新・イジメ対策プログラム』の内容を“ちょっとだけ修正”した。

それから程なくして、この学校からイジメはなくなり、。プログラムは“見直し”という事実上廃止が決定されたんだ。

これにより肩の荷が下りたルビイ先生は以前の調子を取り戻した。

今回の件に関わっていた大人たちまで、まるで憑き物が落ちたように元に戻ったらしい。

「ルビイ先生、今回の件は本当にすみませんでした。あのプログラムが取り下げられて、自分たちも我に返りましたよ」

「仕方ありません。心身共に疲弊やす職業です。魔がさしてしまうこともあるでしょう」

「うむ、そうですな。“我々プログラム被害者”は今回のことを糧にしていきましょう」

「……まあ、今回は“そういうこと”でもいいでしょう」


====

「……というわけで、俺たちの学校からイジメはなくなったってわけさ」

俺は自慢げに、兄貴にその話をした。

「ふーん……そりゃすごい。ノーベル平和賞として、はちみつきんかんのど飴を進呈しよう」

だけど反応はイマイチ薄くて、褒めてはいるけど気持ちはまるで入ってない。

俺の話を信じていないのか、あんまり興味がないのか、学校課題で忙しいからなのか。

のど飴欲しさにウソを言っていると思っているようだ。

「なんだよ兄貴、その反応。もっと何かあるだろ」

「欲しがりだな……じゃあ、一つだけ聞こうか」

リアクションに納得のいかない俺に、兄貴は渋々といった感じで質問をした。

「お前たちが“どのような修正をしたのか”……そこを説明していないぞ」

ああー、確かに説明するのを忘れていた。

「聞いて驚くなよ? ズバリ……プログラムからイジメって言葉を消した』のさ!」

「……は?」

兄貴ですら予想外だったらしく、呆気にとられている。

まあ自分で言うのもなんだけど、とても画期的方法からな。

「みんな『イジメ』って言葉があるから過剰反応して、物事を冷静に見れなくなる。つまりイジメ』って言葉を使わなければいいんだよ。だからプログラムからその言葉を全部消して、他の適当言葉で補った」

これが俺の見つけた、イジメを失くす方法

『新・対策プログラム』だ!

「……なあ、それってイジメを別の言葉に置き換えただけで、イジメのものは無くなってないんじゃないか

兄貴、何言ってんだよ。イジメって言葉を無くせば、イジメだと思わなくなるってことだからイジメもなくなるんだよ」

そう力説したけど、兄貴はずっと冷めた態度だった。

はいはい、分かった分かった。弟の成長を実感できて、兄の俺も鼻が高いよ。のど飴全部やるから黙ってろ」

どうやらこの方法世界に浸透するのは、もうしばらく先になりそうだ。

(#69-おわり)
記事への反応 -
  • 話に出てくるプログラムが具体的にはどんなものかは知らないけど、ロクなもんじゃないことは確かだ。 ルビイ先生はそのプログラムの違和感に気づいて、最初の内は反対していたんだ...

    • 生徒たちの知らないところで、何かが起こっている。 俺たちはルビイ先生の周辺を調べることにした。 調べるべき場所の見当は、既についている。 俺たち生徒がよく知らない場所、...

      • 「あなたたち、何をやっているのか!」 パッと見、ペットボトルを使ったスポーツチャンバラだ。 というより、実質的にその範疇に収まるから、俺たちはこのルールで戦っている。 ...

        • ツクヒは普段から不機嫌が服を歩いているような人間だったが、この日は特に虫の居所が悪かったようだ。 体調が完全に回復していないのだろうか。 それとも昨日は寝入りが悪かった...

          • 「よお、しばらくぶりだな。マスダ」 俺を呼ぶその声にギクリとする。 聴こえた方に目を向けると、そこにはツクヒがいた。 「お、おお、ツクヒじゃん。久しぶり」 そうだ、ツクヒ...

            • ところ変わって某日、学内の会議室。 そこにはPTAの会員や、学校の教員が一同に会していた。 「えー、皆さん、こんばんは。今回は新プログラムの説明をさせていただくため、先生方...

              • 結果、俺のいるAチームは負けた。 勝敗は内野の残り人数で決まったんだけど、Aチームは俺1人で、Bチームは2人だった。 「うーん、惜しかったね」 ブリー君は何の気なしにそう言った...

                • 冬休みに入る少し前、衣替えが済むかどうかのビミョーな時期。 俺たちのクラスに転校生がやってきたところから話は始まる。 「この度、私たちのクラスに新しい仲間が増えます。さ...

                  • 『この世から失くすべきだけど、絶対に失くせないものって何だろう』 冬休みの宿題で読んだ本に、そんなセリフがあった。 主人公は登場人物に、そして読者に度々そう語りかけてく...

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