ところ変わって弟のほうは、祭囃子に備えて英気を養っていた。
その過程で、自警団キャンプにて母に小遣いをせびっていたのだ。
「母さん、お金ちょうだい」
「小遣いはお父さんから貰ったでしょ」
「出店で全部使っちゃったんだよ!」
「5000円も!? いくら出店の品物が割高だからって、さすがにそれがなくなるなんて……」
「えーと……金魚すくい、スーパーボールすくい、亀すくい、ウナギすくい、ドジョウすくい……」
見え透いた嘘である。
弟の後ろにくっついている仲間たちを見てみると、大量のよく分からない玩具っぽいものを抱えている。
「呆れた。くじびきに使ったの?」
「欲しいものがあったんだよ……」
「よりによってそんなもので散財するなんて……アレは当たるかどうか分からないのに」
「くじびきってそういうものだろ? 分かってるよ」
分かっていない。
母が言っている『当たるかどうか分からない』は、弟が思っているような意味ではない。
だが、それを弟に説明したところで理解できないと思ったので、母は説明を省いた。
仮に理解できたとしても、弟の性格なら面倒くさい事態になることは容易に推測できたからだ。
「ははっ、マスダさんとこの次男は祭りの楽しみ方をよく知っている」
いつもなら悪態の一つはつくタケモトさんも、今日は上機嫌に絡んでくる。
「タケモトさん、よしてください。息子は単にカモにされているだけです」
「なー、頼むよ。最新ゲーム機が当たれば、元がとれるんだ」
母は恥ずかしくて子の顔をまともに直視できなかった。
「……ダメ」
「ケチ!」
「守銭奴!」
「金の亡者!」
「パープリン!」
母は自分の聴覚にフィルターをかけて聞こえないようにしていたのだ。
「まーまー、親の言うことは素直に聞いとけ。ゲーム機なんて買えばいいんだ」
「でも5000円が……」
「店側の立場になってよく考えてみろ。ちょっとそっとのことで高額商品が当たったら、商売あがったりだろ。あーいうのは当たらないように出来てるんだよ。引き際が肝心なんだ。今回は勉強料ってことで割り切っとけ」
そして便利な言葉ってのは、こういう意固地な人間を黙らせるために使われる。
「もーいいよ! 自分で何とかする」
弟はそう啖呵を切ってキャンプ場を後にした。
俺はというと綿菓子作りにも完全に慣れ、カン先輩との雑談のほうにリソースを割いていると言ってもいいほどだ。
「俺としては一向に構わないことなのですが。俺をバイトに誘ってよかったんですか?」
この仕事内容ならカン先輩一人でもこなせただろうし、わざわざ俺を呼んだのが疑問だった。
「仕事ってのは楽できるよう運用することも大事なんやで……というのも理由としてある」
「その他の理由は?」
「夏祭りのイベントは出店だけじゃないってことや。それに参加するにはペアじゃないとあかん」
カン先輩の魂胆が見えてきた。
「優勝したら賞金が出る、とか?」
「察しが良くて助かる。どうせ金稼ぐんやったら、貪欲にいかんと」
「で、イベントの内容は?」
「ダンスや」
なんだか嫌な予感がしてきた。
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