2022-01-11

明日高山から引っ越す

あの旅館ゲロだけ置いて行くのも心残りなので、レビューのような何かをここに書き記しておく。エッセイとかブログとかそういったことを書いたことのない人間が書く文章から読みづらいかもしれん。すまん。

明日自分高山から引っ越す。

高山の名のとおり、でかい山に囲まれた小さな町だ。マジで沖縄本島の周辺の小島かよってくらい、まわりはなにもない。山だけ。最初Googleマップで調べたときは、あまりにもポツンとあるもんだかはカルト的な村かと思った(申し訳ない)何を思ってここを繁栄させたんだ。「君の名は」に出てくる女の子田舎町。あそこら辺が高山じゃなかったかな。まぁ、自分高山育ちじゃないので詳しくは知らんが。ちなみに岐阜県にある。

去年の2月ごろ、派遣会社にいわれて高山引っ越した。仕事精神的な理由でたった2ヶ月で辞め、それから4ヶ月過ぎて休職することになった。以前の職場でも4ヶ月で辞めたから、自分は働くのに向いてないんだろう。というか生きること全般に向いてないような気がする。メンタル弱すぎて不摂生生活デフォ

というわけで半年くらい高山休職していたわけだが。おかげさまで体調は戻り、来週に復職することになった。ただまぁ、いまのいままで仕事が長続きした試しがないので、不安しかなかった。仕事のことを考えると胸が痛くなるし、あまりの鬱さに身動きできん。

それが祟ったのだろうか。夕飯の帰りに気持ち悪くなって、「こりゃ家に帰れねえ!」と思って、どこか休めるところを探した。だけどくそ田舎に休めるところがあるはずもなく、どこもかしこシャッターを下ろしていた。参ったなと思って、ときおりしゃがみつつ、なんとか歩いていたら、旅館があった。あまりにも気持ち悪すぎたから藁にもすがる思いでインターホンを押した。

出てきたのはババアだった。腰曲がりすぎて、自分の持ってた傘くらいの背丈しかない。

とりあえず気持ち悪いので玄関先でいいから休ませてほしいという旨を伝えたら、快諾してくれた。コロナ禍でちょうど客がいなかったというのもあるかもしれない。電気をつけて、はいどうぞ、とフロントの前にある椅子に案内してくれた。で、お茶はいらんかとかひざ掛けはいらんかとか聞かれた。気持ち悪かった上にあんまり耳がよくないので、全部聞き取れたわけじゃないが。とりあえずお湯だけ頼んだ。

ババアが去ったのを確認して、外の格好でソファーに寝転がった。暖房がつきたてでまだ狭い部屋のなか、急に見知らぬ人間を入れてくれたご厚意を思った。そしたら急に心臓がおおきく脈を打って、体がブルっと震えた。「こればまずい」と思った瞬間、情けないことに涙が出た。友達もいないし、親との関係は悪いし、周囲から冷遇されたし、性格能力ゴミ自分に、やさしくしてくれる人間がいるんだなって思った。

ひとしきり泣いてたら、さっきの女将さんが茶を持ってきてくれた。マスクマフラーで隠れていたが、さすがに気づいたらしく「泣きたければ泣けばいいよ」と言って、そのまま去っていった。映画しかいたことのないセリフに、自分はまたしゃっくりをあげて泣いた。右目から半開きの左の瞼を伝って、生あたたかい水の粒が落ちて、ソファーに黒いシミを作っていたことを強烈におぼえている。平安貴族がよく「枕を濡らして〜」とかのたまってたけど、こういうことか、と思った、あまりにも体が重すぎてそれ以上頭働かんかった。

そんでまた女将がやってきていろいろ聞いてきた。住所はどこ、何歳? 家族は?と。ひとまず住所を伝えた。あまりにも声小さすぎたけど、女将の耳は(自分と違って)いいらしく、声を弾ませ、そこに親戚が住んでいることを教えてくれた。年齢を答えたら「あたしはね、81歳だよ!」と教えてくれた。あまりにも老健すぎて、泣いてしまった。そうとうメンタル参ってたんだなと思う。ひとり暮らしなことを伝えたら、また住所を聞かれた。

そこでおなじ回答をしたら、「そこに親戚がいるんだよ!」とおなじ反応が返ってきて、「あぁ、この人認知症なんやろな」と思った。普段ならウザイなぁといってあしらうけど、厚意が申し訳なさすぎて、ずっと同じ問答をした。たぶん10回以上したんじゃないかな。声出すのがキツかったから、ほとんどがうなずくくらいだったけど。

で、泣いてる自分を見て、女将は「あら?泣いてるの?悲しいことがあったんだね」と言った。ああ、認知症から泣いてたこと忘れてるのか、と思った。うなずいたら、「泣きたければ泣けばいい」と言われて、また泣いてしまった。

悲しいことがあったの?と泣いた理由を聞かれたけど、女将からは「友達となんかあった」とか、「つらいことがあった」くらいしか尋ねられず、この人はメンタル弱者世界とは無縁なんだろうなと思った。さすがに不安で泣いてますなんて答えても理解されないと思ったし、説明する気力もなかったからなにも答えんかった。女将は無理に聞こうとしなかった。

で、問答中はひたすら背中をさすってくれた。いまでも痛むくらいに。コート越しだけど、なんとなく女将のシワだらけの手の感触がした気がした。

そんで、「あたしは〇〇旅館女将なの」「旅館は老舗でね」と自己紹介してくれた。自己紹介といっても、その二文を繰り返すくらいなんだが。あまりにもボケすぎて81という年齢すらあやしいかもしらん。

途中で吐いたり、女将さんの爺さんらしき人が来たりとちっちゃいアクシデントはあったけど、ほとんどは同じことを言い合いながら時間を過ごした。記憶力がゲームNPCレベルだけど、なんかこの人にだけなら甘えてもいいんじゃないかって思うと、すべてが許せる気がした。

しばらく経って落ち着いてきたので、「もう帰ります」と言って、もらったタオルで涙を拭いて、靴を履いた。女将も靴を履いてくれて「どんだけ優しいんだ」って思うなどした。

帰りにまた「あたしは〇〇女将旅館だよ!」と自己紹介して見送ってくれた。

帰りは雪が降っていた。脳内流れる惑星より』ジュピターピアノバージョンを聞いながら、バシャバシャに溶けた雪を踏んだ。喉と胃が焼けてひりひりしたけど、それよりもこの雪も最後かぁと思った。いやな人間もいたけど、なにかと人情味に溢れてる町だったと思う。always 三丁目の夕日みたいな、古くさい町並みにぴったりの温かさが確かにあった。

もしこれを読んで件の旅館に泊まろうと思ったら、女将に「あなたに優しくされた人間がいたので、ここに来ました」とか、まぁそんなことを言ってほしい。まぁいるか分からんし、たぶん女将は覚えてないだろうけど。

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