世の中クリスマスですよね。
この時期、街のイルミネーションを見たり、ネットで非モテ男女の孤独な慟哭を見るものいとをかしという感じだが、みなさん一つの文化に振り回され過ぎじゃないですかね。
年々国際化する日本で、ここに住む人々が年末のこの時期をどのように過ごすのかに興味があって、神社、教会、寺などを写真に収めてみたかった(別に上手くはない。思い通りの光を撮る方法も知らない)。
なのでクリスマスイブ前日の23日に、前から興味はあったが、なんか門前払いされるんじゃないかと思っていけなかったモスクにいってみた。
予報は曇りだったので傘をもたずに出たが、小雨が降ってきて、肌寒かった。
東京ジャーミーは1階がトルコ文化の交流会館、2階がモスクだった。
写真撮影OKとのネット情報を得ていたが、「商業撮影、美術などで撮影する方はひと声かけて欲しい」との注意書きがある。
気になったものを気になったタイミングで写真を撮っていくつもりだったが、ここは宗教施設であって、信徒にとって神聖な場所であるので、指示に従う事にした。
1階の交流会館でヒジャブをかけた女性に「美術の興味があるので写真が撮りたい」旨をつたえると、すこし逡巡した様な感じで、責任者っぽい人を呼びにいった。
しばらくしてヒゲを蓄えた壮年のムスリムの日本人男性が現れて「写真を撮るなら、イスラムの正しい知識を得てからにしてほしい。しばらくすると、館内を案内するツアーが始まるので、それに参加するのを期待する。」という様なことをいわれた。
美術に興味があって写真が撮りたい、というところが引っかかったようで、広告や美術でイスラムの文脈を無視してイスラム的なビジュアルを使われるケースを懸念しているようだった。
なるほど、その懸念は分かるし、もし自分がイスラム的な美的要素で何かを作ろうとしたときに、精神と関係なくビジュアルだけを抽出するのも「志が低い話だ」と思ったので、館内のイスラム解説の書籍を読みながら待つ事にした。
サラッと読むと
・ムハンマドは元々商業をいそしんでいた時期があるので、商業取り引きの話が結構出てくる
・ムハンマドは既婚者で、姉さん女房、もともとムハンマドを雇用していたが、彼の機智に感じ入る所があり結婚した
・非ムスリムは地獄に堕ちるとはっきり書いており「イスラムが正しいのは自明」という前提だが、同時にムスリムへの改宗は決して強制してはならないとも明言している
という感じだった。
しばらくすると、ツアーが始まった。
会館にあつまった見学者の前でイスラムやトルコについて熱弁する先ほどの先生。
日本でイスラムやムスリムについてあまりにも知られていないという事で、とにかく「知ってもらおう」という熱意がこもっており、しばしば時間をオーバーした。
・貧しい人との分かちあいを大切にしており、食事の振る舞いはイスラムにとって大切な行為である
・イスラムの世界では神と人(その他)には明確な上下関係があるが、それ以外は全て平等
との事だった。
しばらくして礼拝の始まりをしめす館内放送がながれ(言葉は分からない)、2階のモスクに上がる事にした。
モスクは土足厳禁。
靴を脱いで館内に入り、見上げると、白亜のドームの頂点にアラビア文字のシンボルがあり、その周囲を赤やシアンの繊細な文様が踊っていた。
館内は白、赤、シアン、紺、黒、ゴールド、緑で、文様やアラビア文字があしらわれた色鮮やかな空間を形作っていた。
教会におけるマリア象のような人間の様を象徴したシンボルはなく、偶像崇拝への禁忌をかなりストレートに守っている。
そういった具体的、象徴的なものがないので、装飾はアラビア文字であったり、植物を単純化したパターンであったり、幾何学文様であったりする。
モスクの中は照明が押さえられて薄明るい程の感じで、正面のゴールドの燭台が輝いていた。
先生がモスクについて解説している最中にも、在日のトルコ人や、たぶんアジアのムスリムが礼拝をしている。
・イエス・キリストもイスラムにとっては予言者の一人ではあるが、クリスマスはムスリムにとって大きな意味はもたない
・基本的に太陰暦なので、生活習慣としての1年の区切りがちがう
・幾何学文様はイスラムの宇宙の姿を表したものということであり、つまりはユダヤ教のカバラや密教の曼荼羅のような方向性のモノ(この例えは自分の解釈)。当初先生が懸念を示したように、たしかにこういったモノを文脈無視で使うと変な表現にはなるように思う
ということだった。
これから日本にマレーシアやインドネシアの人も来るだろうし、年末のお休みにモスク見学をして、多様な日本社会に思いを馳せるのもいいのではないでしょうか。
ちなみにモスクを出る時に、脱いだ靴にくしゃくしゃのペーパータオルを捨てられていて、「宗教施設に来てるのに志が低いのがいるなあ」とはちょっと思った。
いろんな人がいて健全な宗教だと思う。みんないい人だと怖い。