2024-01-08

雨の涙

雨の名前を持った少女との出会いは友人に連れられて行った異国のバービア街だった。

女性を金で買う遊びに慣れておらず、結局友人を残してバービア街を出るとその入り口にたむろする何らかの事情バービアにすら所属できない人達の塊が見えた。ふと目に止まったその少女若い頃に別れた恋人にとてもよく似た顔をしており、つい話しかけてしまった。その子が何かを言おうとした時に横から女衒の様なおばさんが出てきて、カタコトの英語で値段を連呼している。プレイステーションソフトが一個買えるくらいの値段で彼女の夜は売られていた。

僕は彼女時間女衒のおばさんから買い取り、彼女ホテルへ連れて行き話をすることにした。彼女英語があまりうまく話せず、昨日田から出てきたばかりとのことだ。

普段見ているニュースやこの世界の中ではでは、よくよくある話だが実際に触れたのは初めてだった。

Google翻訳を介して彼女言葉と僕の言語を交換していく中で色々なことがわかった。

女衒に見えたあの女は彼女母親で、アル中であること。彼女母親の酒代と自分たち家族生活費の為にこの仕事を始めることを決意したこと。そしてその初めの客であり、今はただただ怖いということを話してくれた。

彼女名前ナムフォン、雨を意味するあだ名であること。タイでは基本的本名を使わずあだ名でお互いを呼び合い、そのあだ名は生まれ場所や、その日の天気などから決めるのだそうだ。僕はナムフォンに危険なことは起こらないということ、そして君が望むならお金だけを渡して今すぐ前の場所に戻っても良いことを伝えた。

ナムフォンは戸惑い、報酬に対して正当な対価を返せないのにもらうことはできないと言った。言語の壁が翻訳では取り払われず、意図が上手く伝わらない。しかし、もどかしいやり取りを繰り返す中で彼女報酬はもらわなくても今日はもうあの場所には戻りたく無いと震える声で教えてくれた。その時、彼女電話がなり、彼女母親が金はちゃんともらったか確認を入れてきた。困った彼女電話を借りて間違いなく彼女お金を渡すこと、そして気に入ったから朝までここにいてもらうことを伝えた。彼女母親は満足そうに電話を切った。横でナムフォンは泣いていた。

翌日の予定をキャンセル自己満足しか無いけど雨の涙に寄り添い、温かい飲み物彼女に飲ませた。

彼女を囲む根本的な闇から救い出してあげることはできない。それでも今この時できることは翻訳を介して彼女の話を聞くことだけだった。

朝が来て、途中で寝てしまった彼女を起こす。

タイ1月は乾季でほとんど雨は降らない。

しかしこの部屋に降った雨の涙は彼女の顔に跡を残していた。

帰り際手元にある金を彼女に全て渡し、少しでも早く今の場所から逃げて、自分幸せを考えた欲しいと伝えた。しか彼女笑顔ありがとうと言いつつ、まだ小さな弟を残して逃げれないと悲しそうに呟いた。

一瞬彼女を連れて逃げようかとも思ったが、ただの旅行者である自分パスポートも持たない彼女を連れていくことはできない。彼女と連絡先を交換し、何か力になれることがあれば連絡して欲しいことだけを伝えた。多分彼女は不気味に思っただろう。僕も逆の立場なら目的が分からず混乱するはずだ。

それでもナムフォンが泣くことに耐えられない自分の心だけをタイに置き、帰国した。

彼女からはたわいもない近況の連絡が時々入る、しか仕事を続けていること、母親から逃げられないことは出会った時のままだ。

  • ( ^ω^ ) 「Hong Kong Night Sight」 https://tower.jp/item/4131204/%E6%B0%97%E3%81%A5%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%A8%E3%81%8D%E3%81%AF%E9%81%85%E3%81%84%E3%82%82%E3%81%AE-HONG-KONG-NIGHT-SIGHT

  • ニュウは元々、タイの田舎の花畑で有名な街に暮らしていた。しかし、観光として産業が成り立つ様なものではなく地元では仕事がなかった。そして彼女は仕事を求めてバンコクに行き...

  • 「Why do you always come to see me only on the last day?(何故あなたは最後の日にしか私に会いに来ないの?)」 アイーダが怒った顔で僕にそう尋ねる。 「いつも最後に1番大切な君のことを覚えて...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん