雨の名前を持った少女との出会いは友人に連れられて行った異国のバービア街だった。
女性を金で買う遊びに慣れておらず、結局友人を残してバービア街を出るとその入り口にたむろする何らかの事情でバービアにすら所属できない人達の塊が見えた。ふと目に止まったその少女は若い頃に別れた恋人にとてもよく似た顔をしており、つい話しかけてしまった。その子が何かを言おうとした時に横から、女衒の様なおばさんが出てきて、カタコトの英語で値段を連呼している。プレイステーションのソフトが一個買えるくらいの値段で彼女の夜は売られていた。
僕は彼女の時間を女衒のおばさんから買い取り、彼女をホテルへ連れて行き話をすることにした。彼女は英語があまりうまく話せず、昨日田舎から出てきたばかりとのことだ。
普段見ているニュースやこの世界の中ではでは、よくよくある話だが実際に触れたのは初めてだった。
Google翻訳を介して彼女の言葉と僕の言語を交換していく中で色々なことがわかった。
女衒に見えたあの女は彼女の母親で、アル中であること。彼女は母親の酒代と自分たち家族の生活費の為にこの仕事を始めることを決意したこと。そしてその初めの客であり、今はただただ怖いということを話してくれた。
彼女の名前はナムフォン、雨を意味するあだ名であること。タイでは基本的に本名を使わずにあだ名でお互いを呼び合い、そのあだ名は生まれた場所や、その日の天気などから決めるのだそうだ。僕はナムフォンに危険なことは起こらないということ、そして君が望むならお金だけを渡して今すぐ前の場所に戻っても良いことを伝えた。
ナムフォンは戸惑い、報酬に対して正当な対価を返せないのにもらうことはできないと言った。言語の壁が翻訳では取り払われず、意図が上手く伝わらない。しかし、もどかしいやり取りを繰り返す中で彼女は報酬はもらわなくても今日はもうあの場所には戻りたく無いと震える声で教えてくれた。その時、彼女の電話がなり、彼女の母親が金はちゃんともらったか確認を入れてきた。困った彼女の電話を借りて間違いなく彼女にお金を渡すこと、そして気に入ったから朝までここにいてもらうことを伝えた。彼女の母親は満足そうに電話を切った。横でナムフォンは泣いていた。
翌日の予定をキャンセルし自己満足でしか無いけど雨の涙に寄り添い、温かい飲み物を彼女に飲ませた。
彼女を囲む根本的な闇から救い出してあげることはできない。それでも今この時できることは翻訳を介して彼女の話を聞くことだけだった。
帰り際手元にある金を彼女に全て渡し、少しでも早く今の場所から逃げて、自分の幸せを考えた欲しいと伝えた。しかし彼女は笑顔でありがとうと言いつつ、まだ小さな弟を残して逃げれないと悲しそうに呟いた。
一瞬彼女を連れて逃げようかとも思ったが、ただの旅行者である自分にパスポートも持たない彼女を連れていくことはできない。彼女と連絡先を交換し、何か力になれることがあれば連絡して欲しいことだけを伝えた。多分彼女は不気味に思っただろう。僕も逆の立場なら目的が分からず混乱するはずだ。
( ^ω^ ) 「Hong Kong Night Sight」 https://tower.jp/item/4131204/%E6%B0%97%E3%81%A5%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%A8%E3%81%8D%E3%81%AF%E9%81%85%E3%81%84%E3%82%82%E3%81%AE-HONG-KONG-NIGHT-SIGHT
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