生まれた家は、田舎の平凡な兼業農家。贅沢させてもらったことはないが食うに困らず貧しくはなかった。
父母は健康で温厚。人間的に真っ当。祖父は放蕩者だったが祖母がよくできた人で、家庭内でパワーバランスが取れており、人の良し悪しが理解できる環境だった。これは幸運だった。
人間関係にも恵まれた。いじめられたこともない。これも幸運だった。
いや、苛烈ないじりが1年ぐらい常態化した時期が小学生のころにあったからあれはいじめ認定できるかもしれない。そこで屈しなかったのは幸運だった。
進学もさして勉強せずとも上位の学校が選択出来た。これも幸運だった。
大学は好きなことを専攻できる学校を選べた。実家から通え、国公立で金もかからない。幸運だった。
容姿は平均よりやや高めの身長にやせ型。顔は平凡。幸運だった。
中高大と彼女もいて楽しく過ごせた。みないい人でいろいろと人との関係を学ばせてもらった。幸運だった。
運動も走れば平均より速く、球技はそつなくこなせた。幸運だった。
あの頃は努力できるような人間ではなく、レベルに全くついていけなかった。そういう環境に身を置く経験ができたことが幸運だったと言える。
中退し、応募するだけで入れる大手の人材派遣会社に入った。仕事がすぐ見つかったことはとても幸運だった。
これを機に上京した。田舎しか知らなかったが、世界が広がった。何も知らない人間であることを知った。幸運だった。
仕事は自分の能力以上のものが求められたが、学ぶことで何とかカバーでき、評価された。何とかなる範疇で幸運だった。
このころの私生活はとても良いとは言えないものだった。基本的に無趣味なので、ネットで暇つぶす以外にやることがなかった。
主にネットでの配信系に入り浸っていた。ずっとずっと入り浸っていた。
そこで知り合った人と、なんだかんだあって結婚した。とても幸運だった。本当に幸運だった。
結婚できるとは思っていなかった。
そこから何社か転職しながら経験を積み、収入を増やした。転職は成功した。これも幸運だった。
たまたまニッチな業界に派遣され、そこでの知識から業界の会社を渡り歩き、業界大手に入ることができた。