それほど裕福な家庭というわけではないけど、せめて晴れ着くらいはと両親は知り合いの呉服屋に頼んで一揃え買ってくれた。大学の卒業式の袴も無料でレンタルというオプションがあって、それも一緒につけてもらった。今思えば成人式用でそれほどいいものでもないけど、思い出として大切に取ってある。
成人式当日はこれも呉服屋のオプションで着付け会場が決まっていて、成人式の会場で朝の7時くらいから着付けが始まった。スタイリストさんが言うには「早い子は5時頃からやってる」ということで、あちこちに晴れ着姿や髪だけセットアップしてもらっている子がいた。
その後、成人式まで時間があるので一度父の車で家に帰り、写真撮影大会が開かれる。どこでポーズしてとかそこに立ってろと父母がカメラを片手にバシャバシャ撮りまくる。早起きして眠いのもあり、この時点で結構疲れてくる。
成人式の時間になり、再び会場へ向かう。会場には晴れ着姿の女性ばかりで、正直誰が誰なのかわからない。何人か中学の同級生を見つけて「久しぶり~!」などと盛り上がる。
会場では中学ごとに席が決められていた。そういえば仲の良かった子が成人式実行委員会やってるとか言っていたなと思い出す。式が始まって、最初こそシーンとしていたが会の進行がかなりグダグダだったため、祝辞などよりも隣に座る旧友との昔話に花が咲いてしまう。一応大人として話を聞こうかとも思ったけど、真面目に何を言っているのかよくわからなかったので聞くことを放棄してしまった。なんか話が終わった後にレクリエーションがあります、みたいなアナウンスがあったけどほぼ参加した人はいなかったようで皆ロビーへ出ていって昔話の続きをしていた。
今思えば敗因は「若い人の手で作るナントカ」というのが流行っていた頃なので若い人に任せた結果、かなりグダグダになったのではないかと思っている。実行委員会というより、それを丸投げした市側にも相当問題があったのではないだろうか。
ロビーでこれまた懐かしい顔に何人か出会う。中でも印象に残っているのが「今お水やってんのー!」と言っていた友人。彼女とはそれきりだけど、今は何をしているんだろう。
家に帰ってくるとお祝いとして親戚を数人呼んで軽い食事会になっていた。この辺は着物に疲れていたのであまり覚えていない。食事会のあと着物を脱いで、ぼやーっと違う自治体の成人式に出ている彼氏にメールするなどする。
夜はクラス会があるということで参加。仲の良いクラスだったので出席率も90%くらいで楽しい夜だった。高校卒業して働いている奴とか妊娠している奴とかいろいろあって大変な奴とか面白かった。ただみんなこうやってそれぞれの道で大人になって行くんだなと思った。
クラス会の後は自然発生的にカラオケになった。徒歩で行けるカラオケ屋では既に他のクラスの2次会が行われていて、カラオケ屋全体が成人式の2次会のようなものになっていた。そこで中学時代1番仲の良かった友達に再開し、カラオケ屋のロビーでアイスを食べながら駄べり、他のクラスの部屋に突入して「久しぶり~!」をかましたり、そんなこんなで駄べり倒したような気がする。
あんなにベタベタした夜はもう二度と訪れないと思っている。冬の寒さだけは身に染みるのに、気持ちだけ子供に返って、でも体はすっかり大人になってしまってそんな子供時代に別れを告る夜。今でもあの日食べたアイスの味は忘れられない。ただのソフトクリームなのに、すごく儚い味がした。ただそれだけ。