そして地元の常連客を大事にしたい と店主は常日頃から考えていた
常連客:ここの店主 実験的にそういうサービスやりたがるんだよ
店内の音楽をリクエストに沿って流したり 備え付けのテレビで動画サイトの映像も見れるようにしたこともあったらしい
店主:思いついたことは何でもやるってスタンスですね お客さんの要望にも可能な限り応えてます
その内の一つが 店内の本に栞を挟んでおけるサービスだったんだとか
読んでいる途中の本や 後で読みたい本などがあった場合に栞を提供してくれるらしい
店主:いつ頃だったか そういうことをやる人が出てきて それに感化されて他のお客さんたちも真似していった感じです
そうして自然発生的に 客たちは栞を介して感想を共有する文化をつくっていき 店主はそれに応えていった
――この星形シールは?
店主:栞に貼って使いますね 他人の感想に「いいね!」と伝えたい時に使う人が多かったです
――ああ なるほど この星に書かれたアルファベットは そのお客さんの名前からとってるんですか
常連客:誰かに認知されてるって互いを意識させれば 栞に変なことを書こうとする奴もいなくなるだろって寸法だな
みんなで一つの本を読むという 地元のブックカフェならではのサービスだ
――つまり このカフェは店主とお客がみんなで作っていったんですね
店主:それはさすがに過言です
――あ そうですか……
ディレクターのコメントは この町の住人たちに全然ハマっていない模様
――それにしても 聞いている感じだと中々に良さそうなサービスと思ったんですが やめちゃったんですか
店主:実際 これでお客さんは増えて 当時は嬉しかったですけどね……
常連客:まあ サービスの数や種類に比例して 身勝手なヤカラも増えたんだな
店主:サービスの選別は客の選別 その側面があることを当時はよく分かっていなかったもので
――あらら……
――ランキング?
店主:星型シールあるでしょ それが多くのお客さんに貼られた栞は表彰されるんです
常連客:それで変な権威付けができちまって 一部の客が居丈高になったんだよ
――ああ それでトラブルが起きたと
末期になると コーヒーや本を読むことが目的じゃなくなってる人まで出てきたんだとか
店主:本の内容そっちのけで 自分の主張を書いているのとかありましたね
――まさか 栞で?
店主:そう 栞で
――でも この紙に書ける文字数 そこまで多くないですよね
店主:なので違う栞を 別のページに挟んで それに続けて書くんですよ
――栞に書くことに固執しすぎでしょ
常連客:そんなんだから 本に栞がビッシリ挟まっている状態になって キショいのなんの
憩いの場である筈のカフェで 居心地が悪くなってしまっては本末転倒
店主:自分の栞に 自分で星形シール貼ったりする人もいましたね
常連客:一つの栞にたくさんシールが貼られてるんだが よく見てみたら それやったの全部同じ奴だったりな
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