ちょうど3ヶ月ほど前、出社したら、直属の上司が昨日亡くなったと知らされた。
35歳で異例の抜擢で昇進した上司で、私が入社以来ずっとしごかれてきた。
ここ最近は、社長肝いりの大きなプロジェクトを率いていた。とある分野に参入するための挑戦的なプロジェクトだ。
上司が亡くなって、ヤバイかと思っていたが、翌日から代わりに入った上司の人格を模したAIが、完璧に仕事を回している。
上司が死んだことを知った会社は、すぐに保険会社に連絡をした。うちの会社は一部の社員に何かあったときにAIが代替してくれる保障をかけている。業務での会話や視覚情報は常時記録されてて、それをディープラーニングって技術で人格を復元してくれるらしい。保険会社は死亡が報告されてからすぐに学習を行わせ、一晩で上司AIのモデルを納入してきた。
知っての通り、AIは人の仕事を奪うから、民間での研究開発及び運用は厳しく規制されている。数十年前の技術革新で職を奪われた人がデモを起こし、既存の仕事を奪うAIは禁止となった。
だが労働人口減少に伴い、業種ごとに規制緩和が少しづつ進められている。うちの業界でも、ちょっと前に解禁になったところだ。
それでも今いる人間を直接的に代替するAIはダメなので、退職したり亡くなったりしてすぐに代替の利かない場合にのみ導入が許されるようになっている。
AI研究なんて閉ざされた環境で研究してるから、ほとんどお目にかかることなんてないけど、知らないうちにすごいことになってたんだな。
上司AIと相談するときは、画面に向かって話しかけてコミュニケーションをする。
見て欲しい資料があれば、アップロードして送って、的確にアドバイスをくれる。
こういう方向で進めたい、と相談すれば、前回打ち合わせの顧客の反応微妙だったからこれはこうしたほうがいい、ここはリスク高いのでバッファをもっと設けようとか、まさしく上司が言うであろうアドバイスをしてくれる。
その他にも、残業してたら早く帰れと言われたり、悩んでいると向こうから察して声をかけてくれたりする。
しかも俺の面倒だけでなく、会社の偉い人や取引先との高度なやりとりにも問題なく対応してるみたい。
ただずっとその上司AIが居ると、そのポジションになれたかもしれない人の仕事を間接的に奪うことになるので、期間は半年と決まっている。なのでそれまでに俺が上司の仕事を引き継げるように、上司AIから学ばなければいけない。
そういう方針を上司AIに伝えてからは、今まで以上に厳しい仕事が回ってくるようになった。
「半年で一人前にならなきゃいけないんだもんなぁ。俺も前の会社で突然部長が亡くなって、そこから部長AIにひどく鍛えられたよ」
と、上司AIはたまにフォローを入れてくれたりして、なんとか頑張っている。
逆に上司AIからは、残された奥さんがどうしてるか、よく聞かれるようになった。
上司とは、よく家に招待してもらったりしていた仲だった。
最近は俺に、「残された家族の面倒を見てやってくれないか」とまでは言わないが、
言いたそうな表情をしていることが多い。