(オリジナルは、2016年11月7日に「エリカ」というタイトルで投稿したものです。すでに数度にわたって細部を変更しており、今後も、物語を完成させる過程で、細部を変更する可能性があります。)
(筆者は、「先生、遠藤さんの上履きがありません!」( https://anond.hatelabo.jp/20160131184041 )と同一です。
「綺麗だ」
その言葉は、エリカを初めて見た時から、ずっと喉の奥に潜んでいたような気がした。何の変哲も無いこの瞬間に、ふと、唇から零れ落ちたのだった。
少女のように愛くるしく、それでいて色っぽい彼女の声が、少し照れているように聞こえた。あるいは、ただ驚いていただけだったかもしれないが、とにかく僕は、これで終わりにするつもりだった。
窓辺のソファはまだ少し肌寒い。細く差し込む月明かりを頼りに、天井の染みを観察する。
そうして、零してしまった言葉をまるで知らんぷりするように、僕は黙って眠りにつこうとしていた。
しかし、そんな僕の身勝手を許さず、「ねえ」と、いつもと変わらない、彼女のルックスと同じくらい綺麗な声で、彼女は僕に呼びかけた。
「何?」
「『エクスプリシット』って、どういう意味?」
「明示すること、あるいは、口に出していうことだよ」
「ふーん」
「どういう文脈?」
「それは、歌詞に露骨な表現が含まれているってこと。未成年には聞かせたく無い曲かもしれないってね」
「あ、そっか」
エリカは普段、音楽を聴くときはユーチューブを使うのだが、僕がスポティファイの話をしたから、アプリを試しているのだった。
飄々としているな。そう思った。だって、僕はまるで、胸に秘めた重大な秘密を打ち明けてしまったかのような気分になっていたのに、彼女はスマートフォンで音楽を探しているのだから。
僕たちの声が聞こえたらしく、メイリンがフェイスブックでエリカに連絡してきたそうだった。
僕は起き上がって、彼女が横になっている、部屋の一番暖かい場所にあるソファの足に背中を預けて、床に腰を下ろした。
それは小さな声でエリカと話をするためだったけど、結局それは言い訳で、僕の心のある部分は、この距離で彼女と話をしたいと、ずっと前から訴えていたのだった。
そしてその『部分』は、一つの要求を叶えたことで、もう一つの要求をするようになってしまった。
「あのさ」
お酒の影響はどれくらいあっただろうか。あからさまによっているわけではなかった。
「髪、触っていいかな」
「どうして?」
「綺麗だから」
薄暗い部屋でもはっきり見える彼女の綺麗な瞳が、にわかに輝きを増したかと思うと、わずかに頬が膨らんで、ニコッと笑ったように見えた。
「いいよ」
彼女はそう言った。はにかみながら。
彼女は上半身を起こして、ソファに腰掛けていたので、僕はその隣に座った。ソファの脇に置かれた小さなランプの暖かい光に照らされて、彼女の横顔が美しく映える。
僕はうっとりしながら、ぎこちない手つきでエリカの髪を撫でていた。彼女の髪は、柔らかく、滑らかだった。地は黒髪だが、数年前に明るい色に染めたそうで、今では綺麗なグラデーションになっている。頭を撫でられている彼女の顔は、見惚れるくらい美しかった。
「私、犬みたいだね」
気づけば夢中で彼女の頭を撫でる僕の手は、犬の頭を撫でるそれのようだった。これだけでも十分幸せだった。それでも結局、心のその『部分』が要求することには、いつも必ず次があるのだった。
「ハグしよう」
「いいよ」
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ええやん
ありがとうございます。今後ともよろしくおねがいします。
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