2018-08-11

[][]先生遠藤さんの上履きがありません! 7

前話:anond:20180809173821

第一話:anond:20160131184041

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ケン

「みなさんを騙して、不安にさせて、それを今まで黙っていて、本当にごめんなさい」

 これで良いんだ。

「みなさん、園田君のことを許してあげられますか?」

 悪いことをしたら、認めて謝れば、許してもらえる。『自分はやってない』だなんて、最初から考えるべきじゃなかったんだ。さっさとこうしていれば良かった。

「いいよ」

「いいよ」

「いいよ」

「いいよ」

 ……

 その時だった。

ケンジ君は犯人じゃありません」

 アヤネが突然立ち上がって、そう言った。俺の目をまっすぐ見ながら。

 俺が犯人じゃない? なんでこいつがそんなことを言うんだ。

 ———俺は水曜日、確かにヒロミ上履きを隠した。昼休みが始まったら教室でぼーっとして時間を潰し、外で遊ぶやつらが出ていくのを待った。ヒロミもその一人だった。俺は誰の注目も浴びないように、まるで俺もドッヂボールをしに行くんだと言う風に教室を出て下駄箱に向かい、俺の下駄から3列ずれたところにあるヒロミ下駄箱に、彼女上履きが入っているのを確認した。そして、誰にも見られていないことを確認して、その上履きを取り、教室の反対側にある熱帯魚水槽に入れたんだ。あの時、「ポチャン」と言う音がして、跳ね返った水が少しシャツにかかったのは、はっきり覚えている。誰にも見られずに計画遂行した俺は、何事もなかったかのように校庭に行って、ドッヂボールに合流した。———

 確かにそうだった。だから俺は、今こうやって、わざわざみんなの前にたって「ごめんなさい」したんだ。それで、やっとみんなも許してくれるところだったじゃないか。それなのに、こいつは今更なにを……。

犯人は、……」

 アヤネが続けようとした時、後ろのタカヒロが飛び上がって叫んだ。

「僕じゃない!」

 意味がわからない。

「はぁ? なにそれ。誰もお前の話なんかしてねえだろ」

 全くだ。

 クラス視線は、一気にアヤネとタカヒロふたりに集中した。「いいよ」コールも止まっている。

犯人は……」

「だから僕じゃないって言ってるだろ!!」

「黙って、タカヒロ君疑ってな……」

「黙るのはそっちだ!」

「だからそうじゃないって言って……」

「うるさい!」

 タカヒロの怒声で静まり返った教室を、アヤネの涙声が濡らした。

「私はケンジ君じゃないって……」

『俺じゃない』……? 

「違う、違う、違う! 犯人ケンジなんだ。それでいいんだ。ほら、本人がそう言ったじゃないか!」

 ……。

あいつは、アヤネの上履きを見つけたユウヤが羨ましいって言ったんだ! 『ヒーローだぜ?』って言ったんだ!」

 やめろ。

あいつは、みんなに褒められて、女子感謝されるのが羨ましくて、自分上履きを隠したのに、それをまるで、『俺は頭が良いから見つけられるんです』って言うみたいに、わざと知らないふりをして、自分で隠したのを自分で見つけて、自慢げに『先生、あった!』なんて言ってたやつだ!」

 やめろ。

あいつは、表では優等生ぶって、裏では女子上履きを盗む変態だ!」

 やめろ!!

 気づくと俺は教室を飛び出していた。

 俺は変態だ。いや、違う。俺は本当は、やってないんだ。俺は変態なんかじゃない。

『全部あいつが隠したんじゃねえの?』

 違う。

自分で隠したから、見つけられるんだ』

 違う。

『そういうの、ジサクジエンっていうんだって

 違う。

大丈夫だよ。みんなきっと、もう気にしてないから』

 俺はやってないんだ。

『俺は陰湿で、変態で、嘘つきで、自分がやったんじゃないと都合よく思い込んで、タカヒロを怒鳴って追い返してしまうような、ひどいやつだ』

 違う。

『謝っちゃえば良いじゃない』

 違うって言ってるだろ!

「ただいま」

 声の震えが悟られないように、精一杯いつも通りにそう言った。

「あ、ケンジおかえり。浦木先生から電話あったわよ」

 教室を飛び出してきたからだろう。

「だめじゃない、勝手に帰ってきちゃ」

「うん」

「無事帰ってきましたって連絡入れておくから

「うん」

「何かあったならお母さんに言いなさいね

「うん」

 とにかく一人になりたかった。

 俺は自室に入ると、鍵を閉めて、ランドセルを放り出し、ベッドに突っ伏した。

 あれは、夢だったのか……?

ポチャン』

 水の音。

 俺は壁にかかっているカレンダーに目をやった。父さんが会社でもらってきたもので、世界のいろんな場所の綺麗な写真プリントされている。9月は、オーストラリアエアーズロック写真だ。

 9月8日、水曜日ヒロミ上履きが隠された日。

 あれが夢だったとしたら、俺はあの日の昼休み、何をしていたんだろう。

 9月7日、火曜日アユミ上履きが隠された日。

 確かこの時は、廊下の窓の外に上履きが落ちてたんだ。俺がやったのか?

 9月6日、月曜日。ユカの上履きが隠された日。

 この時は、理科実験室のゴミ箱。俺は昼休み理科実験室に行ったんだろうか。

 9月2日、木曜日。アヤネの上履きが隠された日。

 この時は、俺じゃない。ユウヤが見つけたんだ。上履きがどこに隠されていたのかも、俺は知らない。

ケンジ君は犯人じゃありません』

 アヤネの上履きを隠したのは、誰だったんだろう。

犯人ケンジなんだ。それでいいんだ。ほら、本人がそう言ったじゃないか!』

 なんであいつはあんなに……。

 そういえばタカヒロとは、俺があいつを怒鳴って追い返してしまってから、話してない。『チョコボ』もやってないし、先週は卓球も行かなかった。あいつは、行ったのかな。

 考えれば考えるほど、気が重くなった。もう終わりにしたかった。どれもこれも、上履き隠しのせいだ。誰が犯人かんなて、どうでもいいじゃないか。みんなの前で謝れば、許してもらえる。それでみんな忘れてくれるし、また元どおりドッヂボールでもなんでもできるんだ。

 ……そうだ。今朝も俺はこう考えていたんだ。真実なんてどうでもいい。謝れば終わるんだから、それでいい。みんなとも仲直りできるし、タカヒロにも謝れるはずだ。そんな風に思っていた。

 ……

 プルルルル、プルルルル

 リビングから電話の音が聞こえる。

はい園田ですが』

 母さんの声。

『え、うん、ちょっと待ってね』

 誰だろう。

ケンジ、ヒロミちゃんから電話よ」

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