2013-07-04

電子出版の話で、出版業界という大きな単語Disること

電子書籍の話題で、既存出版社Disったりするブコメを見るたびに、違和感がある。

正確には、出版社Disに見える、日本出版業界Disったりするブコメを見るたびに、だ。

僕は書店女性が好きだ。

白状しよう、書店員と付き合っていた事がある。

から彼女を見て書店員を好きになったのか、書店員が好きだから彼女を好きになったのかは正直判らない。

本屋に立ち寄って、上の棚に本を入れようと少し背伸びする女性をつい目で追ってしまうのは、

から、街でベージュコートをつい目で追うような、そういうことかもしれない。

それで、書店員と付き合っていたから、色んな話を聞くことが出来た。

本屋が売ってくれるから、手元に本がある。

アタリマエのことだけど、その本代の20%が書店利益になってるという意識は正直なかった。

彼女が働いていた本屋では、たしか20%ぐらいだったと思う。

大きな本屋になると、単に大きいというだけで25%ぐらいになる、らしい。

普通、仕入れが5%も違ったら、まあ勝負にはならないように思う。

でも、本の場合は売値が固定だから、安く仕入れて安く売る、という競争にならないので、なんとか住み分けができる、らしい。

合ってるかどうかはわからないけど、そんなものかな、と思っていた。

店長だったかオーナーだったかは、返本とか支払い?とかで、よく頭を抱えている、みたいな話も聞いた。

そういう話を彼女から聞いているうちに、アタリマエなんだけど判ってなかったことで、漠然と判ったことがある。

出版業界、というくくりをした時に、その末端に居るのは、たぶん彼女なんだ。

「なぜ固執するのか」とか「音楽業界の教訓を活かしていない」とか「既得権益が」って言われるたびに違和感があるのは、彼女Disられているように聞こえるからだ。

エプロンを外して、お待たせ、とはにかむ彼女とか、

猫がいるとちょっと遊んでから帰る日販の人とか、

いつも重そうなカバンを持ってた営業の人とか

良く勝手口で煙草をふかしていた店長とか、

いつも立ち読みをしてる爺さんとか、

そういった、本屋の周りに見えている人達は、たぶん、みんな居なくなってしま人達なんだろうとは思う。

HMVだって閉店が話題にならないくらい、店は減ってる。

レコードを売る店なんて、もう見ない。

から、同じように、きっと彼女が働いていた本屋も遠からず無くなるんだろうとは思う。

でも、それは「他の業界での教訓を活かしていない」からじゃないと思う。

活かしても活かさなくても、彼らは居なくなるんだ。

爺さんは、たぶんkindle漫画は読まないだろうし、

店長はきっと、電子書籍サイトWebマスターにはなれないだろうし、

日販の人も、既存書籍電子書籍スキャンする係にはならないと思うし、

あの営業の人は、たぶん営業をかける先がぐっと減って、楽になるのかもしれないけど、

間違い無く彼女は、電子書籍サイトクレーム受付係として、小さなキュービクルの中で働いたりは、しない。

しないで欲しい。

出版社の人が表に出てくることが多いけど、そうじゃない人達沢山で、出版業界書籍業界は成り立ってる。

もちろん、そういう人達雇用を維持しようとして、出版社が動くのが遅いってわけじゃないと思う。

ゲームの小売なんかと違って、正直、街の本屋さんが大手出版社意見したりは、たぶんできないわけだし。

何が入っているのかわからないけど重そうなカバンを持ち歩いてた営業の人が、ある時僕に携帯を見せてくれながら教えてくれたことがある。

僕は実は女性向けの(エロじゃなかったみたいなんだけど、僕には違いが判らなかった)ケータイ漫画担当もしてる。

小さな画面なのに、電子書籍でも結構売れてる。

これはでも、書籍じゃないよなあ、そういって笑っていた。

その電子書籍は、きっと、読む人に喜ばれてるから結構売れてるんだと思う。

から、商売としては正しいし、顧客ニーズにもあってるし、評価されるようなことなんだと思う。

でも、あの画面の本を「売る」流れの中には、猫好きのお兄さんも、愚痴り気味のおじさんも、髪をかきあげるたびに少しいい匂いがした女の子も、出てこない。

から出版社電子書籍に舵を切るっていうのは、つまり既存出版業界を全て切り捨てて、生き残るってことだと思う。

出版業界は動きが遅い、じゃないんだ。一回店を畳んで、新しい場所で商売を始めようとしてるだけなんだ。

仕入先は掴んだまま、今までの取引先を、全て切り捨てて。

悪いとは言わない。

商売だし、世の中の流れは止められないんだろうし、顧客はいつもわがままで新しいものを求めてる。

でも、ほんの少しでも良い。

出版業界は、音楽業界の二の轍を踏まないように変わるべきだ、とコメントしたくなったら

それは変わるんじゃなくて、既存メンバーを全て解散させて、新しいメンバーで始められるように、

今の業界は、早く死に絶えるべきだ、そうコメントするのと同じ事なんだな、と思い出して欲しい。

小さな本屋なんてさっさと無くなって全部電子書籍にすれば便利になるのに、

そういうコメントに見えてしまうたびに、僕はいつも違和感を覚えて、彼女を思い出して、悲しくなる。

記事への反応(ブックマークコメント)

人気エントリ

注目エントリ

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん