電子書籍の話題で、既存の出版社をDisったりするブコメを見るたびに、違和感がある。
正確には、出版社Disに見える、日本の出版業界をDisったりするブコメを見るたびに、だ。
白状しよう、書店員と付き合っていた事がある。
だから、彼女を見て書店員を好きになったのか、書店員が好きだから彼女を好きになったのかは正直判らない。
本屋に立ち寄って、上の棚に本を入れようと少し背伸びする女性をつい目で追ってしまうのは、
だから、街でベージュのコートをつい目で追うような、そういうことかもしれない。
それで、書店員と付き合っていたから、色んな話を聞くことが出来た。
アタリマエのことだけど、その本代の20%が書店の利益になってるという意識は正直なかった。
大きな本屋になると、単に大きいというだけで25%ぐらいになる、らしい。
普通、仕入れが5%も違ったら、まあ勝負にはならないように思う。
でも、本の場合は売値が固定だから、安く仕入れて安く売る、という競争にならないので、なんとか住み分けができる、らしい。
合ってるかどうかはわからないけど、そんなものかな、と思っていた。
店長だったかオーナーだったかは、返本とか支払い?とかで、よく頭を抱えている、みたいな話も聞いた。
そういう話を彼女から聞いているうちに、アタリマエなんだけど判ってなかったことで、漠然と判ったことがある。
出版業界、というくくりをした時に、その末端に居るのは、たぶん彼女なんだ。
「なぜ固執するのか」とか「音楽業界の教訓を活かしていない」とか「既得権益が」って言われるたびに違和感があるのは、彼女がDisられているように聞こえるからだ。
いつも重そうなカバンを持ってた営業の人とか
いつも立ち読みをしてる爺さんとか、
そういった、本屋の周りに見えている人達は、たぶん、みんな居なくなってしまう人達なんだろうとは思う。
レコードを売る店なんて、もう見ない。
だから、同じように、きっと彼女が働いていた本屋も遠からず無くなるんだろうとは思う。
でも、それは「他の業界での教訓を活かしていない」からじゃないと思う。
活かしても活かさなくても、彼らは居なくなるんだ。
店長はきっと、電子書籍サイトのWebマスターにはなれないだろうし、
日販の人も、既存書籍を電子書籍にスキャンする係にはならないと思うし、
あの営業の人は、たぶん営業をかける先がぐっと減って、楽になるのかもしれないけど、
間違い無く彼女は、電子書籍サイトのクレーム受付係として、小さなキュービクルの中で働いたりは、しない。
しないで欲しい。
出版社の人が表に出てくることが多いけど、そうじゃない人達沢山で、出版業界、書籍の業界は成り立ってる。
もちろん、そういう人達の雇用を維持しようとして、出版社が動くのが遅いってわけじゃないと思う。
ゲームの小売なんかと違って、正直、街の本屋さんが大手出版社に意見したりは、たぶんできないわけだし。
何が入っているのかわからないけど重そうなカバンを持ち歩いてた営業の人が、ある時僕に携帯を見せてくれながら教えてくれたことがある。
僕は実は女性向けの(エロじゃなかったみたいなんだけど、僕には違いが判らなかった)ケータイ漫画の担当もしてる。
これはでも、書籍じゃないよなあ、そういって笑っていた。
その電子書籍は、きっと、読む人に喜ばれてるから、結構売れてるんだと思う。
だから、商売としては正しいし、顧客のニーズにもあってるし、評価されるようなことなんだと思う。
でも、あの画面の本を「売る」流れの中には、猫好きのお兄さんも、愚痴り気味のおじさんも、髪をかきあげるたびに少しいい匂いがした女の子も、出てこない。
だから、出版社が電子書籍に舵を切るっていうのは、つまり既存の出版業界を全て切り捨てて、生き残るってことだと思う。
出版業界は動きが遅い、じゃないんだ。一回店を畳んで、新しい場所で商売を始めようとしてるだけなんだ。
仕入先は掴んだまま、今までの取引先を、全て切り捨てて。
悪いとは言わない。
商売だし、世の中の流れは止められないんだろうし、顧客はいつもわがままで新しいものを求めてる。
でも、ほんの少しでも良い。
出版業界は、音楽業界の二の轍を踏まないように変わるべきだ、とコメントしたくなったら
それは変わるんじゃなくて、既存のメンバーを全て解散させて、新しいメンバーで始められるように、
今の業界は、早く死に絶えるべきだ、そうコメントするのと同じ事なんだな、と思い出して欲しい。
くっさいくっさい三丁目の夕日史観はこちら(笑)
Kindle組み立てる工員が必要だから大丈夫だよ。 ビックカメラの店頭で売れないKoboを売ってもいい。