米国では政策金利の引き上げが実施されようとしているが、預金金利への期待は高めてはいけないようだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)は3月に金利の引き上げに踏み切る構えを見せており、その後も年内の追加利上げが行われる見通しだ。通常、金利が上昇すれば、銀行預金の利息も増える。だが、今回はそうではない。
銀行は預金を必要としていないため、預金金利を上げる動機がない。政府による景気刺激策によって米国家計の預金残高は増え、企業には現金があふれている。米商業銀行の預金総額は、2020年初めの約13兆3000億ドル(約1537兆円)から約18兆1000億ドルに膨れ上がっている。
融資先に請求する利息と預金者に支払う利息の差額を収入とする銀行は、この機会を利用し、収入基盤である融資事業を活発化させることが見込まれる。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まった20年3月、FRBがほぼゼロ金利への引き下げを実施したことを受け、銀行業界全体で貸し出しによる利ざやが過去最低水準に落ち込んだ。
バンクレート・ドット・コムによると、米国の大手銀行の普通預金口座の平均金利は、昨年末時点で約0.06%だった。高金利をうたうハイイールドセービング口座の利率は、20年に入ってゼロ金利政策が実施される前まで1.5%以上だったが、現在は0.5%前後となっている。
各銀行の経営陣は、先月行われた第4四半期の決算会見で、今回はこれらの金利をFRBの利上げに連動させることはないとの意向を示した。
高利率の預金口座を提供するアリー・ファイナンシャルのジェン・ラクレア最高財務責任者(CFO)は「今回の利上げサイクルでは、預金金利は全般的に低めになるだろう」と述べている。
預金金利を上げるためには、銀行は融資を増やす必要がある。パンデミック下のほとんどの期間、低金利に加え借り手の需要不足もあり、預金と貸し出しのバランスが崩れていた。ただ、この状況は変わり始めている。銀行業界からは21年10-12月期に融資需要が増加したことが伝えられており、ほとんどの銀行はこの傾向が22年も続くと予想している。
金融サービス調査会社キュリノスのリテール預金およびコマーシャルバンキング部門の責任者、ピート・ギルクリスト氏は「銀行の貸し出しが現在よりも大きく増えるまでは、預金金利が大幅に上昇することはないだろう」との見方を示している。
金利が上昇すれば、資金の一部をより高利回りの投資先に移す預金者もいるかもしれない。そうなれば、預金金利を引き上げる銀行も出てくる可能性がある。
テキサス州オースティン在住のライアン・エングルさんは、アメリカン・エキスプレス(アメックス)に高利率の預金口座を開設した。開設当時の金利は1.5%を超えていたが、約1年後に金利が下がり始めたことに気が付いた。現在は0.5%だ。
エングルさんは「その時に、預金の意味がないのではないか、何か対策をする必要があるのではないかとは思った」と語る。だが、仕事がまた忙しくなり、「まあ、少なくとも安全ではある」というような認識になっていたという。