2021-04-02

令和の蟹工船から降りた話

昨年の秋、技術者派遣転職した。

蟹工船に乗せられる寸前で船を降り、仕事を辞めた。

新卒入社企業で外れを引き、大学の専攻と異なる部署に配置され数年。

元の業界に戻ろうにも業務経験は無し扱いを受ける。

転職サイトのエージェントから経験を積むためにも技術者派遣が良い、と勧められた。

数ヶ月の就職活動の後に、某派遣会社から内定を貰った。

入社後はエンジニアとしての研修を受けながら派遣先とのマッチング機会を待っていたが、

一ヶ月を過ぎた当たりで不穏な話が聞こえてきた。

地方工場へ、期間工労働派遣。数十人単位で送られるらしい。

いたことはある。入社前や入社当日に「新卒入社社員が外部研修として向かうもの」と説明された話だ。

「中途入社社員は既に社会経験があるので、増田さんは行かなくて良いものだ」とも担当者から聞いていた。

その時は、今の時期になってやるんだ、くらいの感覚だった。

数日後、肩を叩かれて別室へ。

労働派遣に行くことが決まった」と説明を受けた。

新型コロナウイルスの影響もあってか、どこも受け入れが厳しくなった矢先の話だとか。

数週間の後に荷物をまとめて、地方引っ越し。最低半年従事してもらう、だとか。

何かがおかしい。

そう感じて、転職サイトのエージェントに「入社前の説明と異なる命令を受けた」と連絡を入れた。

面接担当者との対話の機会を作ってもらい、話を聞く。担当の手違いで行かなくて良いものだと伝えていたという。

から会社命令として行ってほしい、と。

話が違う、と伝えた。

最初から行く可能性があるのなら、内定を受けるかも考えた事だろう。

エンジニアになるため入社したのであって、期間工になるため入社した訳ではない。

面接担当者研修担当者、偉い人、様々な人と面談を行って、辞める話を伝えた。

「今は苦しい時期だが、リーマンショックの時も東日本大震災の時もうちはリストラをせずに持ちこたえてきた」

「今回の危機会社一丸となって乗り切っていきたい」などなど、ありがたいお言葉を頂戴した。

まり、今までもそういうことだったんだろうな、と合点が行った。

辞職の意志を示し続けた結果、「じゃ、今日付で辞める?」とさらっと言われて、月末付で退職した。

引き止めはしたけれど手慣れているな、と感じた。

そうして令和の蟹工船を降り、転職後数ヶ月でニートとなった。

今までの転職エージェントに連絡と苦情を入れる。「担当者が異動したので新しい担当を付ける」との事。

逃げられたな、と直感転職エージェント会社も、そういう派遣を行うことは知らぬ存ぜぬの一点張り

話にならないので、別会社転職エージェント登録した。

その後はハローワークや労基と揉めたりしつつ、なんとか失業保険を受けた。

しばらく堕落した生活をしたのち、転職活動を再開。

4月から内定を得て、今月ようやく社会に復帰した。

もちろん、技術者派遣だけは避けた。一連の話をした所、「うちも苦しければ期間工派遣を出す」とはっきり話してくれた。

そしてお決まり台詞が飛んでくる。

「今は苦しい時期だが、リーマンショックの時も東日本大震災の時もうちはリストラをせずに持ちこたえてきた」

配置転換派遣先変更もリストラだろうに、とは、言わないでおいた。

辞めずに送られた同期たちはどうなったのだろうか。

思ったけれど、連絡を取ることは辞めた。無理に深淵を覗きに行く必要もない。

いま、令和の蟹工船の中で、どんな怨嗟や怒号が飛び交っているのか。

それを知る必要は、どこにもない。

  • これが現実か。逃走か闘争か。令和の蟹工船で闘争は想像もつかない。戦おうにもどこもかしこも無責任なので、握り潰してやろうとした矢先相手はスライム状に指先から滑り落ちてい...

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