2021-01-19

私は絶対に許せない。

昨今はブームだ何だとかであいつを取り扱う店が増えてきて、街を出る度にうんざりする自分がいる。アレを目に入れるだけで不快になるから出かけるときはなるべく販売店近くを通らないルートにして自衛しているけれど、どうやら最近ショッピングモールの中でも販売フェアなどというものをやっているようだ。もうコンビニスーパーしか行けなくなるかもしれない。

私の嫌いなものについて他人に話すと、大抵は苦笑いが返ってくる。

「何で?可愛いじゃん」

わたし早くあれに乗りたくて急いで免許取ったのに、何も分かってない」

「誤解しているだけだよ。今度乗せてあげるよ」

何が可愛い馬鹿馬鹿しい、分かってないのはお前達の方だろうが。最も苦笑いして此方の考えを矯正させるようなことを言う輩と一生分かりあえる気はしないのだけど。

布団に潜り込み目を閉じる度、三年前の記憶がふつふつと蘇ってくる。

女手一つで私を育て上げた自慢の母が忙しい合間を縫ってファミレスに連れてってくれた。その日は丁度かんかん照りで、だから私と母の影がふたつ伸びていてカオナシみたいだねって笑った思い出があった。額に汗をたくさん滲ませていた私に、母は「じゃあ今日特別パフェ頼んでもいいよ」って笑って言ってくれた……

「お母さん、お母さん!!!ねえお母さん、目を開けてよ!!!

明るくて優しくて、時に厳しくも温かく見守ってくれた母はあの夏の日、ファミレスに飛び込んできた複数のかたまりによって殺された。

「お母さん、お母さんってば……!!」

和やかに家族との時間を楽しんでいた私にとって、それは青天の霹靂の様な出来事だった。時速何キロで飛び込む私の背丈よりも大きいもの。飛び散る硝子の破片。衝撃によって崩された建物の一部。テーブルから落ちて粉々になる食器類。事故の三分前、卓に届いた母のオムライス

世間は「あれ」を無害で善良なものだ、事故なんて起こらないなんて言う。確かにあれは生身でぶつかってもさして問題いかもしれない。だがそれだけでどうして「無害だ」「安全だ」って言い切れる?

アレが店に突っ込まなかったら、母は事故の衝撃で頭を強く打たなくて済んだのに!




















「前にもああいうことがあったんだよ」私をあの時保護してくれた警官は言っていた。

体内に猫を置き去りにした馬鹿な女がいて、だからその女の車は焦ってファミレスに突っ込んだらしい。その時は誰も怪我人などはおらず、寧ろ突っ込んだ方は猫を助けた功績だとかいって表彰までされたそうだ。

私はそれを聞いて心底怖くなってしまった。どうして世間は、あの肉の車を愛好する人々は話も通じない、予想出来ない行動を取る生き物に命を預けられるんだ?

「あの子たちを困らせることして、ああ人間は愚かだな」自分がいつ彼奴らの御機嫌を損ねる行動をするかも分からないのに、裏切られるか分からないのにどうしてそう平気に言えるんだ?

私は彼奴らが、「モルカー」と呼ばれる全ての個体絶対に信用できない。もう鉄の塊が全盛期だったあの頃には戻れないけれど、もし叶うのならあの時代に早く戻ってほしいとも思う。

母の墓参りの帰り道、私は電車の中でモルカーに乗り込む親子二人組を見つけた。

運転手であろう若い女性も、彼女の子である小さい女の子も、二人を迎え入れる黒いモルカーも全員幸せそうな顔をしていた様に見える。

そう言えば母は私と違って小さな動物特にモルモットが好きだった。きっと母がまだ生きていたのなら、きっと近いうちに我が家にもあれがやって来てたのかもしれない。

最も、それはたらればの話なのだけれど。

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