2019-07-03

[] #75-6「M型インフルエンザー」

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ネットにある怪文書の9割は内実そんなもんだよ。結果、真実に近かったとしても、それは賽の目を当てただけ」

それを知った途端、目に映る『Mの告白』の文章が上滑りしていくようだった。

俺はもう、これをマトモに読むことは出来ない。

「ただの愚痴でこんな……」

各論を切り取って考える分には、真っ当な箇所もあるからね。頷きやすい部分が少しでもあると、リテラシーの低い人間は当てられやすい」

まさに俺じゃないか

ちくしょう、俺にもっとリテラシーがあれば……」

良いように翻弄されてしまった。

何とも言えない恥ずかしさが込み上げてくる。

騙されたとまではいかないけど、ほとんど騙されたようなもんだ。

俺は「騙された方が悪い」ってのを、大した理屈だとは思ってない。

だけど、騙されたことによる恥ずかしさは否定しようがなかった。

「ああ、ちくしょう、俺はこんなのを、なんで本気に……」

恥をかかせた人間が、どこの誰かも分からいから余計に虚しい。

甲斐ない自分にキレることしかできなかった。

「ま、まあ、そこまで気落ちする必要もないよ。『Mの告白』はエモーショナルセンセーショナルだ。情緒的で関心を引く要素が強いと、リテラシーは分が悪い」

落ち込みっぷりがよっぽどだったのか、タイナイが特有言葉選びで慰めてくる。

理屈イマイチからなかったけど、俺みたいな奴ってことだけは伝わった。

「……確かに、俺だけリテラシーがないってわけじゃない。多くの人が、嘘か本当かを見分けられてないんだ」

俺は、そう自分に言い聞かせるように答えた。

すると、タイナイはまた妙なことを言いだす。

「僕が思うに、リテラシー大事なのは“嘘か本当かを見分ける”ことよりも、“嘘か本当か分からない場合対応”だよ。その点で、“リテラシーがある”といえる人間は少ない」

そもそもリテラシーって言葉自体、まだ俺はちゃん理解できてないんだ。

そんな独自解釈を持ち出されても理解が追いつかない。

「え? どういう意味?」

「うーん、じゃあ1から説明しようか」

「いや、もういい。お腹いっぱい」

あんなクドい説明、一日何度も聞いてたら頭がパンクする。

「それにしても……」

改めて思う。

「……結局“M”は何者なんだろう」

「さあね。だけど“M”が賢明人間ならば、少なくとも名乗り出るようなことは絶対しないだろうね」

「なんで?」

曖昧表現ばかり使うタイナイが、『絶対』という強い言葉を使うのは珍しかった。

「“M”について快く思わない者は多い。大半は有象無象だけど、中には報復してやろうと血眼になっている人もいるようだ」

報復……」

殺害予告とかも、よく見るね」

「そこまで!?

俺も“M”に対してはちょっと怒ってるけど、殺してやろうとまで思ってる奴がいるのか。

「あることないこと、個人フィルターにかけて語られるわけだからね。立場性格次第では、たまったもんじゃないだろう」

なんてこった。

なぜかタイナイはのほほんと言っているが、これは大事件の前ぶりだ。

もし迂闊に“M”が正体をバラしたら……そいつらに殺されるかもしれないってことだろ。

何とかして未然に防がないと。

「大変だ! “M”に危険だって伝えないと!」

「伝えるって、どうやって……」

もちろんアテはある。

だけどそれを説明している暇はない。

俺はすぐさま部屋を飛び出した。

「それに、ネットきっかけで起きた事件もあるにはあるけど、怪文書と同じで殺害予告鵜呑みにし過ぎるのは……ああ、行っちゃった」

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