そうして放課後。
俺は足早に家に帰ると、すぐさま自分の部屋に向かった。
パソコンで“M”について調べるためだ。
「……ギリシャ文字?」
ひらがな、カタカナ、アルファベットなど、色々と変えて検索してみたけどカスりもしなかった。
なんだよ、最近の検索機能はすごいって話を聞くけど、全然そんなことないじゃないか。
それどころか段々と脇道に逸れていき、求めていない知識ばかり増えていく。
「へえー、M表記ってこんなにたくさんあるんだなあ」
同時に、俺の中で“M”に対する興味も薄まっていくようだった。
なるほど、誰も足取りをつかめないわけだ。
正直、“M”がネットにいるのかすら怪しいと思えてくる。
「珍しいな、お前がパソコンで調べ物とは」
俺はそれに気づかないほど熱中していたらしい。
「1024×1024……算数の予習か?」
「違うよ。“M”っていうインフルエンザのこと調べてるんだ」
我ながら意味不明なことを言っていたと思う。
「インフルエンザって、そんな型があったのか? というか、それで何で算数の計算……はーん、なるほどな」
それでもさすが兄弟というべきか、すぐに状況を察したようだった。
「代われ。こういうのを調べる時はコツがあるんだ」
兄貴がパソコンを使い始めると、たちまち画面にそれらしい情報が並ぶ。
俺が1時間近くやっても出なかったのに、人が違えば1分もかからないのか。
「おおー、すげえ」
「いや、関連するキーワードを複数検索しただけだぞ。パソコンの授業とかで習わなかったのか?」
「トランプゲームしかやらねえもん。テストも宿題もないような科目を真面目にやる気しないし」
まあ、こういうことになるなら、ちゃんと勉強すべきだったと思わなくもないけど。
「とりあえず、そうだな……騒ぎの発端になった、『Mの告白』とやらを読んでみるか」
『Mの告白』はざっくりといえば、こんな感じだ。
“M”は『ラボハテ』の関係者であることを自称し、社内での事情を色々と羅列している。
とにかく『ラボハテ』には様々な問題がある、ということが伝わってくる内容だ。
「お前、マジで言ってんのか。こんな怪文書をよく鵜呑みにできるな」
「え? かいぶんしょ?」
「お前には説明する気も起きない。餅を食べない人間に、餅が危険な食べ物だと分からせるために原材料から解説するようなものだ」
「はあ?」
その日は結局、兄貴が意味不明な例えをして“M”の話は終わりとなった。
「ますます分からん。こんな内容で、何であそこまで騒ぎになってんだ」
「……“インフルエンザ”じゃなくて、“インフルエンサー”な」
ところかわって兄貴の学校でも、“M”についての話がクラスで繰り広げられていた。 中でも、兄貴たちの熱量はすごい。 「『ラボハテ』のゴタゴタ知ってるっすか? いやー、結構シ...
俺は教材の入ったカバンを机に置いたまま、その輪に勢いよく跳び込んだ。 「そんなに気になるニュースがあったのか?」 「『ラボハテ』の新プロジェクトでトラブルが起きたんだよ...
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」なんて、マリー・アントワネットは言っていなかったらしい。 なんで彼女のセリフとして広まったかというと、“あいつなら言いかね...
もう終わったら
≪ 前 俺は兄貴の言っていたことが気になって、翌日タイナイのところを訪ねた。 兄貴の友達だし、ネットに別荘もってる人らしいから、今回の件についても詳しそうだと思ったからだ...
≪ 前 「ネットにある怪文書の9割は内実そんなもんだよ。結果、真実に近かったとしても、それは賽の目を当てただけ」 それを知った途端、目に映る『Mの告白』の文章が上滑りしてい...
≪ 前 そうして俺が目的地へ走っている時、兄貴は乗り物で優雅に移動していた。 「それで弟は、“M”の話を鵜呑みにする人間が多いのは『奴がインフルエンザだから』って言ったん...
≪ 前 「それに現代のテクノロジーだったら、未来のボクじゃなくても解決できるだろう。そういうことに精通していて、かつキミの要求を快く受けてくれる人に心当たりはないのかい...
≪ 前 ムカイさんは自分の電脳と、ネット回線をケーブルに繋いだ。 もっと大掛かりかと思っていたけど、パソコンとほぼ同じやり方なんだな。 「これが“M”とやらの文書か……では...
≪ 前 「僕が?」 「あの文章が書かれた場所は、この家だってのが分かった。つまり、書いたのもタイナイだろ」 まったく、とんだ愉快犯ピエロじゃないか。 まるで自分が書いてい...