2019-06-30

[] #75-3「M型インフルエンザー」

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ところかわって兄貴学校でも、“M”についての話がクラスで繰り広げられていた。

中でも、兄貴たちの熱量はすごい。

「『ラボハテ』のゴタゴタ知ってるっすか? いやー、結構ショックっすね~」

気になるものには何でも関わりたがるカジマ。

「僕はネットで追っていたからずっと知ってるよ。“M”の告白も、ここまで影響力を持つようになったかって感じだよね」

ネットに第二の住まいを持つタイナイ。

「いち小市民の声なき声も、やっと実を結ぶ機会が出来たというべきだな」

政治社会的ものに敏感なウサク。

「お前ら、よくそんなに熱をあげられるな。最近、暑くなってきたってのに、余計に温度が上がるぞ」

そこに澄まし顔の兄貴がいるという構図だった。

「逆に、マスダだけが冷めすぎなんじゃないっすか?」

「俺には関係のない話だし」

「そんなことないだろ。マスダの母さんって、確か『ラボハテ』製のパーツ使ってただろ」

「俺の中ではそれを“関係がある”とは言わない。今回の騒動って、製品問題があったからじゃないし」

実際、母さんの手足はラボハテ製になっている。

とはいえ、間接的に関係があるくらいレベルだった。

弟の俺は“M”の存在が気になる年頃だし、兄貴ちょっとやそっとのことで物事俯瞰するのをやめない。

「というか、その“M”ってどこの誰かも分からないんだろ。そんな奴の言うことを信じて、踊らされるなんてバカみたいじゃないか

「確かに本当かどうかなんて確証はない。だが、もし本当だったら何か言及せざるを得ないだろう」

「そうっすよ。“M”が誰かなんて分からないし、告白の内容が真実かも怪しいけど、もし本当だったら気になるじゃないっすか」

「そうだよ。本当だったら何か言いたくなるし、嘘だったらそれはそれで何か言いたくなる。どちらにしろ僕らは何か言わなきゃならないんだよ」

しろ、全く関係がない人が周りで囃し立てるものから兄貴は余計に冷めていた。

「俺にどうしろってんだ。結局、やることは騒ぎに乗っかるだけだろ。それで何か解決になるのか?」

「いやいや、こういう騒ぎって案外バカにできないもんだよ」

「むしろ国とか法が裁かないから、オイラたちが“騒いで、問題にしてあげている”と言ってもいいっす」

「待て、カジマ。その言い方だと、無理やり問題化させた騒ぎに、我々が軽い気持ちで便乗しているみたいに聞こえるではないか

「言い方変えても、ほぼ同じだと思うんだが」

兄貴も、この騒ぎに対して何も思うところがないわけじゃなかった。

だけどそれは言葉にするほどハッキリとしたものじゃない。

どちらかというと、今この状況に対する煩わしさの方を強く感じていた。

「なんだよ“M”って……何がこいつらをそうさせるんだ」

そして、この煩わしさを少しでも解消するには、“M”について知るべきだと兄貴は考えた。

こうして動機こそ違うものの、俺たちはほぼ同じ時間に、ほぼ同じ目的見出していたんだ。

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