ところかわって兄貴の学校でも、“M”についての話がクラスで繰り広げられていた。
「『ラボハテ』のゴタゴタ知ってるっすか? いやー、結構ショックっすね~」
気になるものには何でも関わりたがるカジマ。
「僕はネットで追っていたからずっと知ってるよ。“M”の告白も、ここまで影響力を持つようになったかって感じだよね」
「いち小市民の声なき声も、やっと実を結ぶ機会が出来たというべきだな」
「お前ら、よくそんなに熱をあげられるな。最近、暑くなってきたってのに、余計に温度が上がるぞ」
そこに澄まし顔の兄貴がいるという構図だった。
「逆に、マスダだけが冷めすぎなんじゃないっすか?」
「俺には関係のない話だし」
「そんなことないだろ。マスダの母さんって、確か『ラボハテ』製のパーツ使ってただろ」
「俺の中ではそれを“関係がある”とは言わない。今回の騒動って、製品に問題があったからじゃないし」
実際、母さんの手足はラボハテ製になっている。
弟の俺は“M”の存在が気になる年頃だし、兄貴はちょっとやそっとのことで物事を俯瞰するのをやめない。
「というか、その“M”ってどこの誰かも分からないんだろ。そんな奴の言うことを信じて、踊らされるなんてバカみたいじゃないか」
「確かに本当かどうかなんて確証はない。だが、もし本当だったら何か言及せざるを得ないだろう」
「そうっすよ。“M”が誰かなんて分からないし、告白の内容が真実かも怪しいけど、もし本当だったら気になるじゃないっすか」
「そうだよ。本当だったら何か言いたくなるし、嘘だったらそれはそれで何か言いたくなる。どちらにしろ僕らは何か言わなきゃならないんだよ」
むしろ、全く関係がない人が周りで囃し立てるものだから、兄貴は余計に冷めていた。
「俺にどうしろってんだ。結局、やることは騒ぎに乗っかるだけだろ。それで何か解決になるのか?」
「いやいや、こういう騒ぎって案外バカにできないもんだよ」
「むしろ国とか法が裁かないから、オイラたちが“騒いで、問題にしてあげている”と言ってもいいっす」
「待て、カジマ。その言い方だと、無理やり問題化させた騒ぎに、我々が軽い気持ちで便乗しているみたいに聞こえるではないか」
「言い方変えても、ほぼ同じだと思うんだが」
兄貴も、この騒ぎに対して何も思うところがないわけじゃなかった。
どちらかというと、今この状況に対する煩わしさの方を強く感じていた。
「なんだよ“M”って……何がこいつらをそうさせるんだ」
そして、この煩わしさを少しでも解消するには、“M”について知るべきだと兄貴は考えた。
こうして動機こそ違うものの、俺たちはほぼ同じ時間に、ほぼ同じ目的を見出していたんだ。
俺は教材の入ったカバンを机に置いたまま、その輪に勢いよく跳び込んだ。 「そんなに気になるニュースがあったのか?」 「『ラボハテ』の新プロジェクトでトラブルが起きたんだよ...
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」なんて、マリー・アントワネットは言っていなかったらしい。 なんで彼女のセリフとして広まったかというと、“あいつなら言いかね...
もう終わったら
≪ 前 そうして放課後。 俺は足早に家に帰ると、すぐさま自分の部屋に向かった。 パソコンで“M”について調べるためだ。 「……ギリシャ文字?」 だけど目的の情報が見つからな...
≪ 前 俺は兄貴の言っていたことが気になって、翌日タイナイのところを訪ねた。 兄貴の友達だし、ネットに別荘もってる人らしいから、今回の件についても詳しそうだと思ったからだ...
≪ 前 「ネットにある怪文書の9割は内実そんなもんだよ。結果、真実に近かったとしても、それは賽の目を当てただけ」 それを知った途端、目に映る『Mの告白』の文章が上滑りしてい...
≪ 前 そうして俺が目的地へ走っている時、兄貴は乗り物で優雅に移動していた。 「それで弟は、“M”の話を鵜呑みにする人間が多いのは『奴がインフルエンザだから』って言ったん...
≪ 前 「それに現代のテクノロジーだったら、未来のボクじゃなくても解決できるだろう。そういうことに精通していて、かつキミの要求を快く受けてくれる人に心当たりはないのかい...
≪ 前 ムカイさんは自分の電脳と、ネット回線をケーブルに繋いだ。 もっと大掛かりかと思っていたけど、パソコンとほぼ同じやり方なんだな。 「これが“M”とやらの文書か……では...
≪ 前 「僕が?」 「あの文章が書かれた場所は、この家だってのが分かった。つまり、書いたのもタイナイだろ」 まったく、とんだ愉快犯ピエロじゃないか。 まるで自分が書いてい...