この頃相棒が何故かやたら冷たい、と思っていたら、上がり際に相棒に言われた。
「何でそんなん数えてんの?誰かに言われたの?」
「別に誰にも」
私が数えていたのは、ハガキと切手と収入印紙の数だった。よその店はどうか知らないけど、当店の場合、シフト交代の際、レジの仮点検を次に入る人にやってもらい、上がる人はハガキ等の残数を数えて、帳票に記入してから上がる事になっている。
個人的には、レジにハガキ等の販売記録が残っているのだし、レジの本点検の時に店の責任者がハガキ等も数えてレジの記録と突き合わせれば足りるんじゃないかと思う。
けど、レジの打ち忘れが起きた場合に打ち忘れぶんを弁償させるとか、内引き(店員による万引き)の防止とか、そういうのの為に、記録を取らせたいのかなぁ。よくわからん。
相棒は、
「数えて本当の数書くから、皆嫌がってるよ」
と言った。
「へぇ~」
それでも数え続けた私だった。
バイトを始めた頃は、ハガキ等の帳票が一体何なのか分からず、書き込んでいるのも早朝の人(たぶん本点検の担当者だろうから、店長かイケメン正社員氏)とシフトリーダーくらいで、あとは空白になっている事が多かったので、私も何も書かなかった。
相棒と組むようになってから、ある時ふと、この帳票って何を書くものなんです?と聞いて見たら、相棒は「上に書いてる数字と同じく書けばいい」と言われたのでそうしたが、長らく何も書かないのが習慣だったので、書くのを忘れて帰る事も多かった。
それからしばらくして、シフトリーダーの次に入る日があって、その時また、この帳票には何を書けばいいんです?と聞いた。すると、シフトリーダーは、
「ハガキ等の数を数えて、シフト中に売った数と残数を記入するんだよ」
と、実際数えてるところを見せながら、丁寧に教えてくれた。
にも関わらず、私は、忙しかったのと書かないのが習慣になっていた為に、書かないで帰る事が多かった。同じ時間に上がる相棒が、帳票に書き込むという事を、一切せず(他にも書くべき帳票があるんだけれど)、さっさと上がろうと急かす事もあって……というのはまあ言い訳だよなー。
私がここ半月ほど、真面目にハガキ等の数を数えて帳票に書き込むようになったのは、単に店がすんごく暇だからなのだった。先週まで冬休みだったので、数分残業してハガキ等を数えるくらい、大した手間でもない気がしていたのもある。また、相棒以外の人と組む日も多かった。
私は、相棒と仕事をする時はわざとちょっと仕事をサボるようにしていた。一応、先輩の顔を立てる的な意味で。相棒は私が相棒よりも仕事を出来る・知っているという事をとても嫌がるので、相棒よりも仕事をしないようにしていたのだ。
店長や新人ちゃんやプロアルバイター氏と組む時は、何も文句を言われないので、私は解き放たれた気分で好きにやっていた。
好きにやるとは、気になってた掃除とか帳票の抜けとかをやれるだけやる、という事だった。
・全ての棚の拭き掃除をする
・帳票をちゃんと書く
棚の拭き掃除は全部は出来なかったけど、それでもだいぶ見映えがよくなった。帳票は、忘れた日もあったけど、大体書いた。
先週か、先々週か、偶々私の勤務日の昼に、帳票にオーナーのチェックが入っていた。お昼から4時頃まで、誰もハガキ等の数を帳票に記入しておらず、オーナーがそこに赤ペンで×をつけて『どうして書かないの?』と書き添えたのだ。
それを見て、私は、あーやっぱ書かないといけないんだな~、最近はちゃんと書いててよかったわ~、お叱りを受けなくて済むわ~、と思いながら、帳票に数字を記入した。まさか相棒にそれで嫌われるとは思わず。
帳票に本当の数字を書かれて「嫌がっている皆」とは誰なのだろう。
大体、今まで帳票に見向きするのは帳票に書き込む習慣のある人だけだったのでは?私が書いているのが、本当の数字、だと、誰が気付けたのだろう?
知らんけど。
1ヶ月ほど前までは、真面目にやって嫌われるより、適当にサボって相手に合わせる方がいいと思ってたけど、いつの間にか、それを忘れていたよなぁ、と思う。
To do リストに並んだレ点が全て真実と、知ってるのは自分だけなのにそれがとても快感だった。
あー良い汗かいたなぁ~、と自己満足で一杯になってウキウキしていたけど、浮かれ過ぎて、それを見られてると思っていなかったのである。
「さっすが増田さん、あざっす!」
と言っていたが、この人は私とシフトに入ったのは私がまだ超新人でモタモタやってた時期だけなので、流石も何もないんじゃ、と思った。イケメン正社員氏の中の私のイメージは、決められた最最最低限仕事を時間内に全部やりきるのも覚束無い状態で止まっていてもおかしくない、と思うのだが。
以前、店長が言っていた、オーナーがたまに防犯カメラの動画で皆が仕事してる様子を見ている、すごくたまにだけど、というのが本当で、オーナーが私が掃除やらなにやらしているとこを見つけて、他の人達に何か言ったのだろうか。