2018-02-19

祖母の思い出、足にまとわりつくスカート

イメージキャラクターの話が来た時、まず思ったのは「なぜ私が?」だった。

入社して数年、真剣に働いてはきた。けれど、こんな形で代表となり、表に出るなんて荷が重いと言わざるをえない。飛び抜けて優秀というわけでもなく、長く勤めているわけでもない。単に女性というだけなら、産休育休を経て復帰した先輩社員だっているのに、なぜ?

それでも話を承諾したのは、祖母の顔が浮かんだからだ。せっかく遊びに行っても、一日中窓の外ばかり眺めていた私に、面白いかいと笑ってみかん差し出してくれたしわしわの手。私が就職した年から老人ホームに移り、今ではあらゆる記憶に靄がかかってしまっている。多分私は今の祖母と言うよりも、記憶の中の祖母に対して胸を張りたかったのかもしれない。私は夢を叶えたのだ、と。

写真撮影の日、渡されたのは新品の制服

普段も着ている制服だったが、新しいものを用意してくれた。

パッと見は以前のものと変わらない。だけど着てみて唖然とした。これは制服だったが、制服ではない。

あばらのあたりで絞られた形で、妙に胸が強調されるジャケットスカートは薄く、足を通すと今まで一度も経験したことのないほどの静電気が立って驚いた。布は腰回りにまとわりついて脚の形を露にした。何かの間違いだと思いたかった。

撮影場所にはカメラマンの他に何名か男性社員がおり、そのうちひとりは私の直属の上司だった。助けを求めたかった。けれど口を開きかけたその時、彼が似合ってるよと親指を立てた。心は冷えきって凍りついた。

それからのことはよく覚えていない。

私は言われるがままにポーズをとり、笑ってみせ、何度かメイクを直されながら撮影をこなした。

出来上がったポスターの中では、スカートを不自然に脚にまとわりつかせ、媚びた表情とそれを際立たせる濃い頬紅をつけた女がいた。頬に手をあて、体は業務で一度もしたことのないようなくねらせ方をしている。

その写真が発表されてインターネット炎上しても、私は泣いたりしなかった。

どんなに小さな仕事でも手を抜かずこなしてきた。イメージキャラクター抜擢も、そんな誠実さが評価されたのかもなんて、一瞬でも思った自分が恥ずかしい。ただ、会社に歯向かわない扱いやすいだけの若い女だったのだ。仲間だと思っていたのは私だけだった。

退職願いは書かない。

しろ私はこの会社で、絶対出世したいと思う。

女性登用の流れを利用してでも、後ろ指を刺されようと何でもいい。あらゆる手を使って上り詰めたい。そして、2、30年後にまたイメージキャラクターを作ろう。今度は男性がいい。ベース制服でありながらタイツみたいなタイトズボンで、股間の形がはっきりわかる衣装にする。媚びたような表情で身体をくねらせたポーズ。とにかくそういう写真を撮る。

ねぇ部長、息子さん今いくつでしたっけ。是非将来はうちの会社に。どうですか?イメージキャラクター

サンプルとして貰った自分ポスターを引き裂いてゴミ箱にぶちこんだ。祖母がひとりで外出できない身であることに安堵したのは初めてだった。来年頭に取り壊しが決まっている、あの線路沿いの祖母の家が、一瞬頭に浮かんで消えた。

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