勉強熱心な小学生なら夏休みの宿題として取れてしまうような資格だけを武器に技術屋になろうとした。
結果は言うまでもない。
「自分だけは大丈夫だ」「俺、技術とか好きだし、多分」「俺はちゃんと職場を選んだから」「ここは大手だから信用できる」「研修とかも充実してるらしい」とありがちな死亡フラグ四天王を揃えて地獄へのロイヤルストレートフラッシュを完成させておきながら人生まるごとベッドしていった。
そして、俺は気がついた時、故郷から遠く離れた日本の端っこで社員寮暮らしを始めていた。
唐突な展開に流されるままに、「きっと大丈夫」を毎日1000回心のなかで唱えるヒットソングの歌詞みたいな情景の中で一歩一歩地獄へと続く道を引き返すチャンスを無駄にし続け、地獄へ来た。
たとえ身についても、それを活かす機会はない。
というよりも、日々技術を振り回している人間と同程度の知識がなければ、レールの上に転がり落ちた石ころにしかならない。
俺は何でここにいるのかと毎日考える。
自分と同じように、何か大手なら大丈夫だろうと思ってやってきた人間の絶望を新人研修で何度も聞いた。
アリバイ作りにもならない新人研修の目的は、この会社のヤバさを感じてから逃げ出そうという理性が働く間の時間を合宿場に閉じ込めることで、超高熱で茹でガエルを調理し終えるためだったのだと今なら理解できる。
あの研修の最大の成果は、誰もの心に残った「この会社はヤバイ」と「でも、今更やめても経歴に傷がついちゃってるし……」というセルフダブルバインドによる無間地獄であった。
この呪いは大変よく機能しているらしく、実際自分も「ここに長く居てはいけない」という焦燥と「だけど何も手にせずここから出たらそれこそ次はもっと辛い地獄に行くぞ」という確信に日々振り回されている。
運転免許を取ってすぐに、中型免許無しでギリギリ乗れる大きさの車両なら乗り回せますと言い張って運送業界に潜り込んでも不幸しか待っていないのだ。
まずは、実際に自分で手を動かしてみて、合う合わないをよく考えて、それから、実際に手を動かしたことがある人間でなければくぐれない正しい門を通ってその業界へと入るべきなのだ。
そこは根性論と非効率とサービス残業と足の引っ張り合いと尊敬できない先人達と明日の見えない毎日だけが待っている。
輝かしい未来はそこにはない。
そんな事もっと早く気づけばよかった。
未経験の技術屋み未来がないじゃなくて君に適性がなかっただけ 自分に適性がないってことがわかって良かったじゃん