2018-01-16

人類が毛の呪縛から解放される日

私はハゲている。

毛は勝手に生えてくるし勝手に抜ける。生えてほしいところには生えてくれないのに、要らないところの毛はやたらと伸びる。

自分の体に生えている一番長い毛は乳首の横に一本だけ生えているチーくん。もはや友達だ。大切に伸ばしている。

女性脱毛お金をかけるのは自分コントロールの効かない部分を制御するためなのだ、という文章をどこかで読んだ。たしか自分自分コントロールの効かないハゲに頭を抱え、更にハゲ助長させている気がする。

ハゲはつらい。部下の女性と目が合わず彼女目線が上の方に行くのが分かる時が何よりつらい。風が多少なりとも吹いている日は前を向いて歩けない。濡れるとさら悲惨だ。海やプールへの誘いを一体何年断り続けているのだろう。ちなみに私はまだ20代なので、同僚たちのフサフサで艶のある髪を見て自尊心が傷付けられる。

ちなみに皮膚科に通っている。肌が弱いのがハゲの原因の一つにあるみたいだ。でも治療の成果が出ている気はしない。AGAについても調べたが、薬の副作用が怖いなと思って以来気が進まない。スキンヘッドにする勇気はまだない。頭の形が悪いし、頭皮に湿疹があるからできるだけ隠したい。

よし、そうだ、毛から解放された人類のことを想像しよう。

その人類は毛が一本も生えない。その代わり、オシャレカツラ産業がとても盛んだ。人々は自分オリジナリティ溢れるカツラデザイン表現する。カツラの色や形にも流行世代があって、カツラを見ればその人がだいたいどんな人間なのかが分かる。

まつげやまゆげが無いのは目に悪い気がするから、目を保護するためのつけまつげつけまゆげが普及している。あとつけ鼻毛も。つけ陰毛で愛を表現する人たちなんかも現れる。

人類は毛をコントロールし、デザインし、肉体のすべての制御を手中に収める。人類がまだ制御できないものは死とうんこくらいだ。

そんな世界になったら、チーくんと離別することにはなるものの、ハゲによって磨り減った私の心は輝きを取り戻し、海に行ったり風雨の中を堂々と歩いたりできるようになるのだ。自分制御できないもの判断されることは減り、我々は我々のことを自分の思うままにデザインすることができる。

でも、私は飽くなき人類の一員なので、毛の制御だけに飽き足らず、健康な肌や、凛々しい目や、高い身長に憧れて、それら全てを制御できる世界を夢見ることだろう。そんな世界での外見は、インターネット世界アバターみたいなものなのだろうか。

だいたい皆同じような美しい体や顔を持っていて、派手な装飾品やありえない色合いで差異を付ける。しかしそんなアバターばかりが増えてくると、自分ありのままを受け入れる「自然派」が一番だみたいな主張をする人たちが現れる。

世界は「アバター派」と「自然派」と「中間派」に別れ、それぞれに所属する人間たちにはなんとなく特有の傾向が生じてくる。そして終わりのない論争が起きる。昼下がりのワイドショーでそれぞれの派閥所属する人間たちが唾を飛ばし合う。

人間は与えられたものを受け入れるべきだ」「いいや、与えられたものだけで生きて行くのに苦痛を感じる人だって居る」「自分が苦しいと思うものだけ改善すればいいじゃないか」そんな怒号が飛び交うワイドショーから今日わんこ』にチャンネルを変えるところまでを想像し終わると、私はいつも考えることをやめて、頭皮に軟膏を塗り、チーくんが今日も元気かどうかを確認する。

  • カツラって・・・全く毛の呪縛から解放されてなくてワロタ。 でも変な色の髪の毛が世の中に溢れたら面白いよな。緑とか赤とかピンクとか。それでいて就活シーンには真っ黒で統一さ...

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