あの頃、4年後に控えた就職活動で失敗することが怖くて仕方なかった。
大学生の就職率は90%まで落ち込んでいて、これからもっと下がると言われていた時代だ。
1割の人間が路頭に迷う、そう聞かされてその1割は自分だと確信していた。
幼稚園の頃からクラスで浮いていた自分は、自分こそが社会に出られない人間なのだと思い込んだまま10年以上も生きてきた。
そして就職市場がリクルート達によって壊されていく中で、吹き荒れる「コミュニケーション能力」という曖昧なフレーズに怯えて生きていた。
高校に通っている間、ずっと毎日不安で、どうせ自分は大学まではなんとか誤魔化せてもそこから先で人生が終わるのだと信じ切っていた。
根本的に人として間違っている自分が頑張っても無駄だという言い訳の元、勉強もロクにせず毎日をネット見てオナニーして寝て過ごした。
学校には一応通っていたが、通っている理由は勉強のためではなくて、レールから外れるよりもレールの中にいた方が楽な気がしたからだ。
レールの端っこでギリギリ吹き飛ばされない程度の所にしがみついたまま高校を卒業し、当然のように浪人した。
浪人したあとも、どうせ大学に行ってもその後の就職活動で失敗するんだからと諦めきったまま、ロクに勉強もしなかった。
そうして滑り止めの三流私大に入った。
同時に、それより少しだけ偏差値の高い学校の試験が全く解けないということに対して、如何にここ数年分の勉強だけが全く身が入っていなかったのかを理解した。
自分への失望はいよいよ高まり、その状態でフラフラと大学に通い、就活シーズンを迎えた。
実験のレポートを書こうとすると、内容が1回生の初めに習った事しか書けなくなっていた。
その段階の学習で要求される内容は、授業が全く頭に入ってないから説明されても理解できなかった。
自分は、勉強の仕方を忘れたまま大学に入ってしまったのだとようやく気づいた頃には全てが手遅れだった。
勉強でいちばん大切なのは、それで自分がどうなりたいかをイメージすることだ。
自分はそれを失っていた。
勉強をしても、無駄だというリクルート教団の洗脳に浸った脳は全ての学習を後ろ向きに否定した。
頑張って勉強をして、頑張るほどにもっと頑張ることを要求されるのだから、手を抜いて手を抜いてどんどん手を抜くべきだとすら思い込んでいた。
何をやっても評価されない。
そんな気持ちのまま4年生になり、ふと何もかもが嫌になり、就活を3社ほどで切り上げて、内々定のまま退学した。
そのまま何年も引きこもって、社会に出てからふと気づいた事は、やっぱりさっさと死ぬべきだったのだなということだ。
終わり。