いい年していつまでも処女というのが面倒になったというのが本音だった。
そいつは男友達の中でも一番気が合い、性格的にも相性がいいやつだった。
そいつとの初めてのセックスは中高運動部だった私でもヘトヘトになるようなものだった。
今にして思えばそうでもないんだけど、部活で使わないような筋肉を使ったのがいけなかった。
それから私の中で、セックスはスポーツという認識になった。それと一緒に、趣味という認識にもなった。
2人で飲んでるうちにそういう流れになることがほとんどだった。
だって面倒だし。今まで人を好きになったことがなかったし。情はあるけど、愛情という感情は無かった。
やった男から金を巻き上げよう、みたいなことを考えなかっただけ我ながらマシだと思う。
他の男はみんな独善的で自分本位のセックスを繰り返そうとした。アホは1回やっただけで彼女だと思い込む。お前は部活で対戦した相手全員がライバルなのか。いや、私の感覚が異常なのは知ってるけど。
来るはずの生理が来ない。いつだ。最初にゴムがなくてそのままヤったその日か。
それとも1週間前のあの日か。
悩んでも結果が出ないと思った私は、家の裏にあるドラッグストアで検査薬を買うことにした。
結果は陽性だった。
なんとも言えなかった。
けど、悩むこともそんなになかった。
産むのか?って自問した時「いや産むやろ」って自答した自分がいたのにびっくりした。
その日の夜。やつをよく行く飯屋に呼び出した。
店の前で待っていると、仕事帰りらしいやつが鼻歌を歌いながらやってきた。というかお前トリセツて。来る前に寄った本屋の有線で流れてたらしい。つくづく間のいいやつだ。
席について、開口一番にこう言った。
「……マジ?えっと、増田(私)が産むなら俺も産む」
ヨネは焦ってた。お前は産まないだろって突っ込んだ。ヨネと私は笑いあった。
「増田は俺でいいの?」
チキン南蛮を食べる私にヨネは聞いた。
何が?って私は返した。
「その子産むってことは俺が増田の旦那になるってことでしょ。それで増田はいいの?」
そうだ。そういえばそうだ。
私の母もシングルマザーで私を育ててくれた。
1人でもなんとかなる前例を私は知っていた。
子供でいっぱいになって、ヨネと結婚するってことが完全に頭から抜けていた。
その時の私はまだヨネのことを子供を一緒に育てる相方くらいにしか考えてなかった。
実際夫婦ってそうなんだろうし。
気づいたら私の中での認識が「私が授かった子」から「私とヨネの間の子」になっていた。
子供はもちろん愛おしかったし、それと一緒にヨネも大切なパートナーとして思えるようになっていた。
最初はヨネのことを好きになるなんて思わなかったし、そもそもその感情を恋と呼ぶことを私は知らなかった。
私はヨネが好きだ。
そのヨネとの子供も好きだ。
その子供を与えてくれたヨネも好きだ。
そんな今が本当に幸せだし、今ではヨネでよかったなって心の底から思っている。
かつての私はヨネのことを気の合う友達としか思っていなかった。
末永くお幸せに!
☆ミ