俺の通っている学校では、公民のカリキュラムに特に力を入れている、らしい。
今回は職業体験であり、体育館には様々な仕事の代表者が集まって、生徒を募っていた。
「接客業はほとんどの職業に応用ができる基本であり資本だ。潰しがきくってのはそれだけで力になる。決して損はさせない体験を与えてくれるよ!」
「キミも警察官を体験してみないか? パトカーに真っ当な理由で乗ることができるぞ。あ、あと本物の銃とかも間近で見られる!」
俺たちにとってはあくまで体験ではあっても、あの人たちにとってはこれも仕事の内。
わざわざ学校にまで出向いたのに、誰も来てくれませんでしたでは困るのだろう。
ただ、まあ俺たちからすれば所詮は体験、そして所詮はティーンエイジャー。
皆が選ぶ職業には多少の偏りが出る。
俯瞰して見てみると、参加人数の差は顕著であることがより分かる。
現代社会の縮図ともいえ、これもある意味では学びの一環なのかもな。
そんな俺はというと、未だどれを体験するか決められないでいた。
「マスダ、何にするか決めたか?」
「まだです。どうもピンとこなくてですね」
「ははあん。『バイトをしている身としては、“職業体験”という名目でタダで働かされるみたいだから癪だ』とか思っているんだろ」
「お前は利己的なところがあるからなあ。深く考えず、何となく選ぶってのも一つの手だぞ。先生だってそうしたんだから。ハッハッハ!」
担任は大げさに笑ってみせる。
悪い人ではないのだが、距離感のとり方が俺とは合わなくて苦手だ。
だが人気のある職業体験は、参加数があまりに多すぎても対応しきれないので定員を設けていることも多い。
だが今回の俺は特に運が悪く、第二候補どころか第三候補もあぶれてしまっていた。
「まあ、それはさておき。やってみたいものが今回の中にないなら、あくまで学校の課題と割り切ればいい。単純に自分にとってやりやすいと思うものを選ぶのもアリさ。それだって働くための大事な動機だ」
「ハッハッハ! 全然そんなことなかったけどな! つまり様々な理由を総合して選べってことだ」
担任は大げさに笑ってみせる。
大げさに笑うときは冗談を言っているときなのだろうが、その時はあえてそれを利用しているようにも俺は感じた。
「まあ、どうしても選べるのがないなら、その時は先生と同じ教職の体験でもしてみるか」
「ハッハッハ! それがいい!」
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