2017-07-02

[] #29-1「簡単商売

俺の通っている学校では、公民カリキュラム特に力を入れている、らしい。

今回は職業体験であり、体育館には様々な仕事代表者が集まって、生徒を募っていた。

接客業ほとんどの職業に応用ができる基本であり資本だ。潰しがきくってのはそれだけで力になる。決して損はさせない体験を与えてくれるよ!」

「キミも警察官体験してみないか? パトカーに真っ当な理由で乗ることができるぞ。あ、あと本物の銃とかも間近で見られる!」

エンジニア現代社会象徴だ。エンジンを作る職業だよ」

代表者たちは生徒を集めようと必死だ。

俺たちにとってはあくま体験ではあっても、あの人たちにとってはこれも仕事の内。

わざわざ学校にまで出向いたのに、誰も来てくれませんでしたでは困るのだろう。

ただ、まあ俺たちからすれば所詮体験、そして所詮ティーンエイジャー。

華やかなものや、ポピュラー職業を選びたがるのだ。

皆が選ぶ職業には多少の偏りが出る。

俯瞰して見てみると、参加人数の差は顕著であることがより分かる。

現代社会の縮図ともいえ、これもある意味では学びの一環なのかもな。


そんな俺はというと、未だどれを体験するか決められないでいた。

「マスダ、何にするか決めたか?」

かねた担任は俺に話しかけてきた。

「まだです。どうもピンとこなくてですね」

「ははあん。『バイトをしている身としては、“職業体験”という名目でタダで働かされるみたいだから癪だ』とか思っているんだろ」

「近からず、遠からずです」

「お前は利己的なところがあるからなあ。深く考えず、何となくぶってのも一つの手だぞ。先生だってそうしたんだから。ハッハッハ!」

担任は大げさに笑ってみせる。

悪い人ではないのだが、距離感のとり方が俺とは合わなくて苦手だ。

別に俺も悩んでいるばかりではなく、一応は候補があった。

だが人気のある職業体験は、参加数があまりに多すぎても対応しきれないので定員を設けていることも多い。

運悪くあぶれた生徒は、しぶしぶ第二候補を選ぶしかないのだ。

だが今回の俺は特に運が悪く、第二候補どころか第三候補もあぶれてしまっていた。

「まあ、それはさておき。やってみたいものが今回の中にないなら、あくま学校課題と割り切ればいい。単純に自分にとってやりやすいと思うものを選ぶのもアリさ。それだって働くための大事動機だ」

「……『先生だってそうしたんだから』?」

「ハッハッハ! 全然そんなことなかったけどな! つまり様々な理由総合して選べってことだ」

担任は大げさに笑ってみせる。

大げさに笑うとき冗談を言っているときなのだろうが、その時はあえてそれを利用しているようにも俺は感じた。

「まあ、どうしても選べるのがないなら、その時は先生と同じ教職体験でもしてみるか」

「いえ、やめときます

「ハッハッハ! それがいい!」

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記事への反応 -
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    • ≪ 前 石を売る商売はアナーキーであり、このご時世に好き好んで買うような奴はちょっとしかいない。 ましてや“そういった目線”から評価して尚、この石に価値を感じる人間は皆無...

      • ≪ 前 その後も様々な方法で売りぬこうとするが、成果は芳しくなかった。 「チャリティだ何だのと言って善良な人間に売るとか、どう?」 「いや、そういう善良な人間はかえって危...

        • ≪ 前 つまり、こういうことだ。 俺たちはここに報告しに行く前、とある取引を行った。 「一個は売れたんだよな」 「うん」 「じゃあ、その500円で俺の石を一個買ってくれ」 「え...

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