その後も様々な方法で売りぬこうとするが、成果は芳しくなかった。
「いや、そういう善良な人間はかえって危険だ。時と場合によっては躊躇なく人を殺す」
俺たちは、もはや正攻法では無理だと考えていた。
「この石にスピリチュアル的な何かがあるって謳ってみる?」
「いっそ今回のことを社会問題にでも仕立て上げて、有耶無耶にしてしまう?」
「それもいいかもなあ。でも色々と面倒くさそうだなあ」
アレコレ案は出すものの期日は迫っており、俺たちは内心ほぼ諦めていた。
おもむろに、唯一売れた石の売り上げである500円を俺たちは眺める。
そうタイナイが呟き、俺も心の中でそれを復唱した。
他に買う人……。
「そうだ!」
俺は気づいた。
「マスダ、何か思いついたの?」
タイナイは要領を得ないようだった。
「いや、マスダ。その買う人が見つからないからこんなに苦心しているんじゃないか」
「忘れちゃいないか。俺たちには買う人のアテがあるんだよ」
更に言えば、あのエセ経営者へ仕返しもできる一石二鳥の方法だ。
職業体験という名目で、学生を酷い商売に加担させた罪は重いぞ。
「マスダの目が据わっている……酷いことになるぞ」
期日の時。
売り上げ報告の日だ。
「それじゃあ売り上げを見せて貰おうか」
俺たちは無言で売り上げを渡す。
「総売り上げは……500円。全然売れなかったようだな」
「いいえ、全部さばけましたよ」
俺の言葉を聞いて、眉をひそめる。
見え透いた嘘に見えたのだろう。
まあ、それも当然のことだ。
だが、嘘は言っていないのである。
「だったらキミたちの持っている、その石はなんだ」
「これは僕たちが買った石ですよ」
「……んん?」
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