2017-07-05

[] #29-4「簡単商売

≪ 前

その後も様々な方法で売りぬこうとするが、成果は芳しくなかった。

チャリティだ何だのと言って善良な人間に売るとか、どう?」

「いや、そういう善良な人間はかえって危険だ。時と場合によっては躊躇なく人を殺す」

俺たちは、もはや正攻法では無理だと考えていた。

「この石にスピリチュアル的な何かがあるって謳ってみる?」

「その売り方はヤバい。買う人間ヤバいから怖い」

「いっそ今回のことを社会問題にでも仕立て上げて、有耶無耶にしてしまう?」

「それもいいかもなあ。でも色々と面倒くさそうだなあ」

アレコレ案は出すものの期日は迫っており、俺たちは内心ほぼ諦めていた。

おもむろに、唯一売れた石の売り上げである500円を俺たちは眺める。

「うーん、他に買う人はいないものかな……・」

そうタイナイが呟き、俺も心の中でそれを復唱した。

他に買う人……。

「そうだ!」

俺は気づいた。

「マスダ、何か思いついたの?」

「ああ、なんてことはない、簡単な話だ。買う人はいるんだよ」

タイナイは要領を得ないようだった。

「いや、マスダ。その買う人が見つからいからこんなに苦心しているんじゃないか

「忘れちゃいないか。俺たちには買う人のアテがあるんだよ」

更に言えば、あのエセ経営者へ仕返しもできる一石二鳥方法だ。

職業体験という名目で、学生を酷い商売に加担させた罪は重いぞ。

社会的制裁よりも、もっと効果的なダメージを与えてやる。

「マスダの目が据わっている……酷いことになるぞ」


…………

期日の時。

売り上げ報告の日だ。

「それじゃあ売り上げを見せて貰おうか」

俺たちは無言で売り上げを渡す。

「総売り上げは……500円。全然売れなかったようだな」

「いいえ、全部さばけましたよ」

俺の言葉を聞いて、眉をひそめる。

見え透いた嘘に見えたのだろう。

まあ、それも当然のことだ。

売ったという割には俺たちは石を持ったままなのだから

だが、嘘は言っていないのである

「だったらキミたちの持っている、その石はなんだ」

「これは僕たちが買った石ですよ」

「……んん?」

次 ≫
記事への反応 -
  • 石を売る商売はアナーキーであり、このご時世に好き好んで買うような奴はちょっとしかいない。 ましてや“そういった目線”から評価して尚、この石に価値を感じる人間は皆無に近い...

    • 結局、不人気の職業体験の面目を保つという意味合いも含めて、俺はアパレルらしきものを選んだ。 職場にはタイナイもいた。 「タイナイ、お前もか」 「そういうマスダもか」 タイ...

      • 俺の通っている学校では、公民のカリキュラムに特に力を入れている、らしい。 今回は職業体験であり、体育館には様々な仕事の代表者が集まって、生徒を募っていた。 「接客業はほ...

  • ≪ 前 つまり、こういうことだ。 俺たちはここに報告しに行く前、とある取引を行った。 「一個は売れたんだよな」 「うん」 「じゃあ、その500円で俺の石を一個買ってくれ」 「え...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん