少し前に近くで火事があったことをタイナイが話したがるので、俺は適当に話を合わせていた。
「そういえば疑問なんだが、似たような火事でも野次馬の数に大きな差があるのを見たことがあるんだが、あれって何が違うんだ?」
「うーん、単に観測範囲の問題じゃないかな。わざわざ自分から観測範囲広げるほど暇な人って少ないだろうし」
俺にはイマイチ区別がつかないのだが、彼らなりの線引きが存在するらしい。
「……で、画像をここで貼り付けて投稿っと。SNSにも更新報告しとかないと」
タイナイはタブレットから手を離すことはなく、俺と喋りながらも器用に操作をしていた。
「うん、ブログのネタになりそうだ。ちょっとセンチメンタルな感じで書いて……おっと、その前に写真も撮っておこう」
タイナイはインターネッツに強い関心があり、これもその一環らしい。
「飽きずによくやるよ」
「ホットでセンセーショナルな話題だからね。僕のようにそれを語りたがる人間がいて、見聞きしたがる人間も多いのさ」
「理解に苦しむ話だ」
「まあ実際問題なぜ関心が強いのかってのは、僕もよく分かってないけどね。分からないままでも、分かっているつもりで追従や迎合して楽しめるのが流行の良さともいえる」
そこまで俯瞰しているのに流行の波に身を任せるタイナイが、俺には酷く歪に感じた。
「おや、マスダの弟じゃないか」
タイナイの見ている方に俺も目を向けた。
弟と、よく連れ立つ仲間が歩いていた。
「あ、兄貴。丁度よかった」
何が丁度いいのかはよく分からないが。
「そう、その時の話なんだけど。二件目でボヤ騒ぎがあったでしょ」
弟が経緯を話す。
「ふぅん、なるほど。僕はその声を聞く前に立ち去ったから分からないけど」
「その時『火事だー!』って騒いだ人が、兄貴たちのクラスメートの人なんだ」
「クラスメートの誰だ」
「名前は覚えてないけど、ほら……魔法少女になりたいだとか言ってて、結局はならなかった」
「今日は見かけていないと思ったけど、別の所でウォッチしていたんだね」
「その人に連絡取れない?」
「ああ、ちょっと待て」
「まあ直に返事はくるだろうから、その間にお前たちで出来ることをやっていたらどうだ」
「出来ること?」
「その火に何か目的があるかもしれないなら、また同じ場所で起こる可能性は低くないんじゃないか?」
その言葉に弟たちはハッとする。
コロンブスの卵的発想のように感じたのかもしれない。
「そうだよ、その可能性を忘れてた!」
「よし、あの河川敷に戻ってみよう」
「じゃあ、僕も付いていこうかな。もしかしたらネタに出会えるかもしれないし」
「そうか。じゃあ、こっちにカジマから返事が来たら連絡する」
「兄貴も一緒に来るんだよ。その方が円滑だろ」
当然のように弟はそう言った。
それに呼応するかのように、シロクロとドッペルが身構える。
ここで下手に渋ると無理やり引っ張っていきそうな勢いである。
俺はため息をつきながら、重い腰を上げることにした。
弟たちは周りの声と動きに追従し、火事の現場へたどり着いた。 しかし、その規模は彼らの期待に応えるような代物ではなく、小さい煙がもくもくとあがっているだけだった。 「燻り...
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≪ 前 河川敷に着くと、そこには意外な姿があった。 「カジマ、お前もここに来ていたのか」 「……っす」 だが、カジマは妙によそよそしい。 要領を得なかったが、すぐに理由は分...
≪ 前 俺たちは一所懸命に火を消そうとするが、カジマが動き回ることもあって上手くいかない。 一体、どうすればいいんだ。 「近くに川があるんだから、そこで消せばいいんじゃ…...