しかし、その規模は彼らの期待に応えるような代物ではなく、小さい煙がもくもくとあがっているだけだった。
「燻り!」
「……って、単なるボヤ騒ぎじゃねえか。しょうもない」
「この程度でハシャげるかっての」
「まるで大火事みたいに言いやがって。ぬか喜びさせんじゃねえよ」
野次馬はすぐさま散っていった。
弟たちも帰ろうとするが、仲間のミミセンはその場から動かない。
何かを考えているようだった。
「どうした、ミミセン」
「いや……このボヤ騒ぎ、なんだか不自然だなって思ってさ」
弟たちは、しみじみと辺りを見渡す。
違和感の正体はすぐに分かった。
「そうか、火元だ」
「これだけ周りに燃えているものがないのに、今これは燃えている。つまり人為的な、しかも時間がそれほど経過していない状態ってことだ」
弟たちもそれには気づいたが、その意味するところが要領を得ない。
「私も違和感あるけど、その火元を作った人間が近くにいるはずじゃない?」
「野次馬が来たせいで居心地が悪くなって、どこかに行っちゃったとか? たき火って条例で禁止されているらしいし」
「それもあるかもしれないけど、気になるのはこの火の“目的”が謎ってことだ。焚き火で温まろうだとか、何かの調理に使うだとか、そういう類のものじゃないだろうし」
「私、不思議なんだけど、何だかただ燃やしているだけのように見える」
「或いは、別の何か……」
「“別の”って、何だ?」
不可解さに弟たちは頭を抱えて唸る。
その状況を打破したのは、意外にもドッペルだった。
「……この火を起こした人に聞いたら?」
消極的なドッペルは恐る恐るといった具合に喋る。
その言葉に弟たちはハッとする。
コロンブスの卵的発想のように感じたのかもしれない。
「そうだな、それが手っ取り早い」
「こういうのは、第一発見者から話を聞いて、手がかりを探るのが定番だ」
「『火事だー!』って騒いでいた人がいたよね。その人が誰か覚えている?」
「よし、その人を探そう」
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