俺たちは一所懸命に火を消そうとするが、カジマが動き回ることもあって上手くいかない。
一体、どうすればいいんだ。
「近くに川があるんだから、そこで消せばいいんじゃ……」
ドッペルに言われて、やっと気づいた。
そんな簡単なことにも気づかないとは、俺たちもかなり焦っていたらしい。
急いで俺たちはカジマを近くの川に放りこむ。
こうして懸命な救助活動のおかげもあり、カジマは服の犠牲と、多少の火傷で済んだ。
「やれやれ、己の作った火にやられるとは……」
「面目ないっす……」
カジマはボロボロの姿で意気消沈しているものの、俺たちは同情する気がまるで起きなかった。
「……まあ、とりあえず病院に行け」
カジマを最寄の病院へ送ったその帰り、俺たちは今回の一件について話していた。
「カジマはバカみたいだが、それだけ火ってのは人を惹きつける力があるんだろうな」
「でも、それで身を滅ぼすなんて、本当に走光性の夜虫みたいだな」
夜虫も炎や電気に突っ込むことはあるが、火種まで作って自らそれに焼かれるってのを人間がやるとは間抜けな話である。
火は人間に知恵をつけた代表格とセンセイは言っていたが、むしろバカになってしまった側面もあるのかもしれない。
「そういえばタイナイ。カジマが起こした火について、あれはブログのネタにするのか?」
「身内ネタは趣味じゃないし、ボヤ騒ぎなんてインパクトもまるでないけど、別の意味でネタがでかいから書いちゃおうかなあ」
「それが新たな火種を生みそうだな」
まあ、さぞかし本望だろう。
それから数ヵ月後、ファイヤーブームは下火となり、一部のマニアが愛好する程度に収まった。
俺はそのことでセンセイと話していた。
「センセイ、あなたが以前言おうとしていたことが何となく分かりましたよ」
「ん? いつの話だい」
「ファイヤーブームの話をしていた時に、センセイが言おうとしてやめた言葉です」
「まあ……でも、多くの人々にはロクに認識すらされていませんでしたが。結局ブームは自然と廃れていきました」
「流行に跳び付く大衆は無節操に見えるが、対岸から眺めるに留めてたってことなのだろう」
というか、もしもカジマみたいな人間が数えられないほどいたら色んな意味で大惨事である。
火は人々にとって身近な存在になってはいるが、遠い存在でもあることを忘れてはいけないのだ。
カジマはその距離感を掴み損ねた。
センセイが不穏なことを言う。
「流行の本質は代わり映えしないものさ。時代は変わっても、な」
そんなことがあって欲しくはないと思いつつも、その時にもしもカジマが同じ過ちを犯すなら、次は見捨てようと決心した。
河川敷に着くと、そこには意外な姿があった。 「カジマ、お前もここに来ていたのか」 「……っす」 だが、カジマは妙によそよそしい。 要領を得なかったが、すぐに理由は分かった...
その頃、俺はタイナイとコンビニ前にいた。 その近くで、少し前に火事があったらしく、タイナイがその話をしたがるので俺は適当に話を合わせていた。 「そういえば疑問なんだが、...
弟たちは周りの声と動きに追従し、火事の現場へたどり着いた。 しかし、その規模は彼らの期待に応えるような代物ではなく、小さい煙がもくもくとあがっているだけだった。 「燻り...
「やあ、マスダ」 「あ、センセイ。どうも」 センセイとバスで乗り合わせる。 相変わらずセンセイは新聞を読んでいた。 俺は気になって新聞を横から覗く。 「ファイヤーブーム…...