2016-09-17

ラサーのこと

当時そこそこハマっていたGTOの影響で「やべー、ヤラハタなっちまったよw」などと友人たちと自虐的にはしゃいでいたことを今でも時折思い出す。

愛すべき彼らは全員めでたく結婚した。結婚式はどれも極めて感動的だった。

対して、私は未だ童貞だ。

ヤラハタどころの騒ぎではない。ヤラサである魔法使いになれるという都市伝説もあるが、そんな救いは当然なかった。

ラサー男を待ち受けていたのは、魔法などという甘ったれファンタジーではなく、極めて地続き的などうしようもない現実だった。

前髪の大多数は生えることを諦め、年に一度の健康診断では「肥満」だの「高尿酸血症」だのとディスられ、脇と足と耳の裏が存在感を主張し始める。

努力次第で何とかなる部分もあるし、もうどうしようもない部分もあると思う。

しか重要なのは、今更見た目をマシにする努力を行う意義を見出せないということだ。

私は23歳で運転免許を取得した。当時の免許証を未だに持っているのだが、写っているのは(あくまで今の自分比較してだが)それなりにシュッとしている若者だ。

でも、こいつでも駄目だったのだ。このシュッとしたいい感じの青年でも、箸にも棒にも掛からなかったのだ。

それなのに、今更「そこ」を目指したところで何になるというのだ。

痩せてようが、髪があろうが、比較的臭くなかろうが、どうしても女性と付き合えなかったのが私という男なのだ


……なにか雑音が聞こえる。

ソープへ行け。話はそれからだ」

童貞の大抵の悩みはソープに行くことで解決する。なるほど、よく聞く言説だ。

実際、私も真に受けた時期があった。

まずは捨ててみよう。「初めての女」などに拘ってる場合ではない。そう思い、私はプロのお店で経験を積むことに決めた。28歳の頃だ。

いきなり本番は怖いから、まずは練習のつもりでピンサロを予約した。

念入りに身体を洗い、歯茎から血が出るくらいの勢いで歯を磨き、ヒゲを剃り、鼻毛を切り、ついでに指毛まで抜いた。

そうして挑んだ初風俗は、結果から言えば、実質的には2分で終了した。

その店では、嬢と顔を合わせたらすぐにシャワー室に連れていかれ、身体の隅々を洗い合うというサービスがあった。そこでもちろん、ちんちんも洗われたのだが……。


「あっ、すいません、ちょ、ちょ、あっ……」


私はシャワー室であっさりと射精した。

自分早漏だということをその時初めて知った。

一応、90分コースだったため、その後もすべてのサービス身体舐め、フェラチオ、素股等)を受けることはできた。

しかし、私は「射精しないこと」だけに全精力を注いでいたので全く楽しくなかったし、それにも関わらず、結局5回も射精してしまったという体たらくだ。

私の中に僅かに残っていた自尊心は完全に崩壊した。

私は早漏。どうしようもなく、早漏セックスもまともにできない身体に産まれ落ちていたことに気づいた28の夜。

奇跡的に女性セックスができる状況に持ち込めたとしても、私は所詮シャワー室で射精してしまう男だ。

恐らく、フラれはしない。私なんかと付き合ってくれる女性のことだ。きっと優しく笑って許してくれるだろう。

しかしだ。彼女の宙に浮いた性的興奮はどうすればいいのだ。可哀想だろう。

……いや違う。そういうことではない。

単純に「私が」嫌なのだ。情けなすぎて想像しただけで死にたくなる。それが全てだ。


こうして私は、童貞でありながらすっかりセックス恐怖症となってしまった。

一応、改善しようと努力はしている。

TENGA」だ。「TENGA」の刺激に慣れることで、少しでも「持ちこたえる」ことが出来る身体になりやしないだろうか。

そう思い、50回以上再利用できるタイプの「TENGA」を購入した。5千円もした。

最初は10秒程度で射精した。

しかし、毎日根気強く使用することで、少しづつ持続時間は延びた。

今では1分半は耐えられる。

ちなみに、射精した後の「TENGA」はもちろん、水洗いして乾かす作業必要となる。

テンガを水洗いしている瞬間、私はいつも死ぬことを考える。

しかし、その後すぐに眠気に襲われるため、「まあ、いいか。どうでも」といった気分で次の日の何も起きない一日のために休息につくのだった。


つづく

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