大学時代、結婚式の短期バイトをしていた。5時間たちっぱなし、その間トイレ休憩もなし、というなかなかハードなバイトだったけど個人的におもしろかった。
バイトをしていた式場は、ジャズとかシックなスタイルで規模も小さい。週末に1組~3組くらい結婚式をしていたから、成功している方だったと思う。だけど、結構ハードな仕事内容だったらしく、春には10人くらいいた新入社員が、正月明けには3人とかになっていたり。正社員の平均年齢は、27.8歳。平均年齢を釣り上げているのは、あんまり仕事をしない3人のお局様たちだったり。アルバイトもとっかえひっかえかわっていった。
結婚式の間中のバイトの仕事は、給仕で、空になったグラスにビールを注いで回ったり、ドリンクのオーダーをとることだった。
それから、バイトのもう一つの大きな仕事は「酔っ払いの相手をすること」だった。「酔っ払ってる人がいたから、行って」と正社員に言われたら、バイトはその人まで走っていって、外へご案内する。結婚式に酔っ払いとは不必要な存在だからだ。ちなみに、その時声をかけられるバイトは、その場で一番足を引っ張っている、もしくはブサイクなバイトだった。酔っ払いの相手は結構屈辱的な仕事である。
結婚式が終わった後は、戦場だった。最大3組の結婚式をこなすために、結婚式と結婚式の間の時間はわずか1時間しかなかった。最後のお客様をお送りした後、BGMがジャズからメタルとかパンクロック系の曲に変わる。さっきまで木村カエラの「バタフライ」のお洒落げなピアノ曲が流れていたのに、お客様がいなくなり、エレベーターの扉が閉まった次の瞬間、メタリカが流れる。それから、「走れぇー!」って正社員の人が怒鳴って、バイトは常に駆け足で清掃する時間に突入する。流れているBGMの音量も半端じゃなく大きいから、正社員の人は常に怒鳴っていた。そこは戦場だった。
1回、走っている途中に大きな花瓶を割ってしまった女の子がいた。仕方がないので、バイト全員でわれた花瓶の破片を集めて片づけをしていたら、うっかり自分の手のひらをざっくり切ってしまった。それで、「血が出てるんで、救急箱かなんかかして下さい」って正社員の人にお願いしたら「うちが危ないみたいじゃん!」「テーブルクロスに血がついたら大変なんだからね!」ってめっちゃ怒られたことがある。あれは今思っても理不尽だと思う。お言葉ですけれど、御社は結構危ない職場です、と言いたいのをぐっと我慢して渡されたばんそうこで乗り切った。
そんなこんなで、結婚式のバイトは結構きつかったんだけど、5時間で8千円、即現金払いという好条件につられてだらだらと続けていた。そしたら、ホテルの偉い人から一番良い部屋に呼び出されて、「君、うちに来ない?」って言われた。「もう、別の会社に内定もらってるんで」って丁重にお断りした。
その後、正社員の人にキッチンに呼び出されて、「今から冷蔵庫はいって、写真撮ってSNSにアップして、炎上して、内定取り消されようよ」って笑顔で言われた。美人なお姉さんで心がぐらっときたけど、全力で丁重にお断りした。
多分おれはメタリカという言葉があったからこんなに怒りがわかないんだろう ちょっとまだあるブラック企業への苛立ちもメタリカがジューダスにかわれば無くなりそう 自分が怖い
途中から花瓶で怪我したの自分になってるけど
分かりにくい書き方したけど、怪我をしたのは俺。女の子は無事だった。