2015-04-20

ろくでなし子」に懲役10月の実刑判決    東京地裁

平成27年4月20日宣告 裁判所書記官   (略)

平成27年 (略)

判   決

本籍          (略)            

住居          (略)           

漫 画 家

五 十 嵐 恵

昭和  年  月  日生

主   文

被告人懲役10月に処する。

理   由

 検察官は,被告人は,資金を集める目的で,3Dプリンターを用いて自己の陰部を模造できるデータを多数人に送付した廉で,この行為わいせつ電磁的記録等送信頒布罪に当たるということで被告人起訴したというものである

 被告人は,「これは女性器をモチーフにしたアートであってわいせつではない」と言い,弁護人は「データから再現される造形物は粗雑無機質で何ら性欲を刺激するところがない」としてわいせつ性を否定しているので,以下,この点について検討する。

 まず,被告人がいうように,金を集める目的で,3Dプリンターを用いて自分の陰部を模造できるデータ作成,送付しておって,之は女性器をモチーフにしたアート等と言うが如きに於いては,判然嘘を述べているだけのものであり,採るに足らない馬鹿げた意見である。反面,弁護人のいうところは多少評価余地がある。確かにこの女性器の造形物は,中年女の陰部を極力リアルに再現しているだけであって,被告がこれを頒布した平成25,26頃には,既にそれに含蓄されている性的意味も枯れ果てており,確かに粗雑無機質で,ほとんど性欲を刺激するところがない。しかしながら,このような形骸的女性器の模造物であっても,一般人がそれを見たとき,かつてそれに含蓄されていた卑猥醜悪なわいせつ的心象を想い起こさせるに十分であり,現在時点においては,それがそのまま社会的にはほとんど性的意味を失脚していても,仔細に観察していると,要するにそれにかつてどのような意味が与えられておったか一般人に想起させるところがあり,まだまだ完全にその性的意味を失っているとは言えず,大局的にみるとかなりのわいせつ性があるものと言わなければならない。約言するに,この模造物には,確かにかつてのような強烈な性的意味現在ではほとんどないが,その形骸をみていると,概容どのような意味がそれによって表現されていたかを一般世人をして推測せしめ,もって性的羞恥心を惹起させるところが全然ないとは言い難いのであって,弁護人のいうごとく,確かにこんなものには最早何も性欲を刺激するところはないとは言っても,如上に説明のように,その形骸がかつてどんな意味を持っていたかを十分に類推させるし,また,現時点ではこの模造物の意味なり心象が息を潜めておっても,将来において翻然復活してその意味を取り戻さないとも限らない。要するに,本件女性器の模造物は,表面的にはほとんどわいせつ性など無いかのごときものであるが,かつて醜悪な意味が込められていたことは確かであり,また,将来その意味が翻然復活する可能性が伏在しているのであって,そもそも形骸であるにせよ女性器の模造物なのであるからわいせつ性がないなどとはとうてい言えない。現時点では強烈なわいせつ性はもはや失脚しているが,依然相当程度の,かつ執拗わいせつ性が伏在しているものであるからわいせつ性がないなどという被告人弁護人見解は全く当たらない。

 しかし,頒布時点においては,この模造物はほとんど意味が枯れており,被告が何の為にこのようなことをしたのかもよく理解できないし,そのペンネームであるところの「ろくでなし子」などというふざけた名前を含めて総合的に勘案しても,客観的社会的にはほとんど何の意味も無いが被告主観において何らかの卑劣な情の生成の方向性が依然執拗に感じられて卑猥であるなどといったことをまとめると,その主観において悪質性がなお高し,反省など全くしていないことから刑法第175条を適用して,被告人懲役10月程度の実刑に処することとし,主文のとおり判決する。

平成27年4月20日

   東京地方裁判所第3刑事部

裁判官 田 部 三 保 子

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