はてなキーワード: 儀典長とは
自宅で行われたそれは途中までは基本の葬式の形と同じだと思っていた。
しかし坊さんがこない。増田はああいう宗教の通夜に出るのは初めてだったので戸惑った。
司会は儀典長というスーツの人がとりしきった。地区ごとに割り振られているらしい。
その人は故人が亡くなった日から通夜、葬儀までちょいちょい顔を見せに来ていた。
増田は故人家族とは距離を置いていたので、少し離れたところからその様子を見守った。
故人のことをよく知ら無さそうな人が死んだばかりの顔を見に来る。
故人の兄が、その人から守るように故人の側にずっといた。
増田は故人が学会員ということも知らなかったのだが、どうやら故人は結婚してしばらくたってから嫁家に学会員にさせられたらしい。
熱心なのは嫁ということになる。家の中には池田の本がずらりとそろっている。本屋に売っているようなものでは無いぞ。広辞苑みたいにな分厚さだ。
流れは普通の葬儀と同じだが、儀典長(おっさん)が坊さんがすることをする。
勿論お坊さんと比べればお粗末なものである。正座で足がしびれていたくらいだ。
しかし始まってから、決定的に違うことが起きる。儀典長のお経読みが始まってすぐのことだ。
「なんみょーほーれんげーきょー!なんみょーほーれんげーきょー!!」
地響きがするように大きな声でほぼ全員が読経しはじめたのだ。しかも暗唱だ。
10分くらいだと思うのだが1時間くらいにも思えたその時間、増田はパニックだった。
増田の周りに宇宙人が居る気がした。知っている親戚たちじゃなかった。
増田は、彼らのことを何も知らなかった。
思えば父親に守られて遠ざけられていたのだろう。
どちらかといえば無神論者の増田は、故人の写真を見つめながら「どうしてこうなったんだ故人」と語りかけた。
勿論返事は返ってこない。気付けば泣いていた。怖さよりも、悲しさが優っていた。
儀典長が正座でしびれた足をほぐして立ち上がり、池田大作の生死論を語る。
そして贈られていた盾の話と、「創価学会名誉本部長」の称号を与えることを伝えてきた。
ぐったり疲れたのだが、ここでさっきまで居た親戚たちのパートナーが式自体に参列していないことに気付いた。
逃げたのだ。それは正しい選択だった。しかしきっと自分たちも故人のようにされてしまうかもしれない。
今は逃げていても、もし死ぬと分かった時、彼、彼女たちは果たして学会から逃げることができるのだろうか…。
まぁ…そこでなぜあの一家が揃いも揃って離婚と再婚を繰り返しているのか納得いったのだが…。
翌日行われた葬儀もほぼ同じメンツだった。違うのは南無妙法蓮華経を暗唱する子供たちが居たくらいか。
相変わらず弔問に来る人たちは故人を知っているわけではない。
それもそのはずだ。故人が弱っていくときに無理やり嫁が引っ越したのだ。
地元なら、どれだけ多くの人が来てくれたのだろうと言う話を後々した。可哀想でたまらなかった。
小さな家では足りなかっただろう。大きな会場を借りて、みんなが知っている人で、惜しまれてもらうことができたのではないか。
良い人だったから。口をそろえて言う。優しい人だったと。
増田も故人が好きだった。好きだったけど、もう故人の事が分からない。
どこにお金が行ったのかと考えたが、お金お金とうるさかった嫁が絡んでいるとしか思えない。とすると、そのお金はどこへ消えたのか…?
考えるだけで頭が痛い。