2022-09-29

まるで働き蟻のようだと笑った

先日の安倍元総理国葬を、ちょっとした施設の休憩スペースに設置されたテレビで知り合いと見ていた

管前総理弔辞に思わず目頭が熱くなり、お互いに涙ぐんだのを気取られまいと、少し体をひねり親指の腹で薄く濡れた目頭を拭った

献花場まで赴くにはいろいろと調整が必要な遠方に住んでいることもあり、黙祷を捧げることしかできずに歯痒かった

来賓の献花が始まったころ、テレビ映像は献花場へと続く列を作る、弔意を伝えるために粛々と進む人々の姿を映していた

しっかりとした喪服のご婦人や、散歩途中のようなポロシャツ姿の老人、仕事を抜け出したかのようなワイシャツ姿の男性に、学生服に身を包んだ子どもなど、

まさに老若男女、偏ることなくさまざまな人によって列が形成されていた

その時、私たちの斜め前方に座って同じくテレビを見ていた70歳前後の老人が、その列の映像を見ながら「はっ、蟻みたいだな!何も考えてない働き蟻だわ!」と吐き捨てるようにいった

きっと国葬について反対という意見を持つ方なのだろう

思えば弔辞最中にもぶつぶつと文句を言っていて、周囲の人に静かにするようにたしなめられていた

注意されてからしばらくは居心地が悪そうに静かにするものの、数分経つと安倍元総理や弔問に向かう人々を貶める言葉呪詛のように吐き出していた

弔問の列に並ぶ人々は黒っぽい服装黒髪の方が多く、本能に従い花を運ぶようだと揶揄するために「働き蟻」と表現したのだろう

その発言をした本人は興奮しながら周囲を見回していて、うまくいってやったとばかりの表情だった

その後、テレビには反対派が映し出された

色とりどりの「のぼり」や看板を掲げ、ステージの周りに集まり太鼓を叩いたり楽器演奏したり、口々に何かを叫んでいた

そして共通する特徴として白髪の方が多いように見えた

その映像をみた私はつい「あっちが働き蟻扱いなら、こっちはシロアリの群れだな」と口を滑らせてしまった

知り合いは驚いた顔をしながらもこちらを見て笑いを押し殺していた

私の独り言が聞こえたのか、「シロアリ…」と少しの笑いで賛同してくれた方もいた

そして、このシロアリ発言は斜め前方に座っていた件の老人にも届いたようで、落ち窪んだ目でこちらを凝視していた

残りいくばくもない寿命怨念に変換したかのようなエネルギーと怒気がこもった目線さらされて少し困惑したが、何かあれば受けて立とうという感情が湧き出した

その老人はバン!と机を叩くとこちらに体を向け、かぶっていた帽子を剥ぎ取り「お前!」と勢いよく立ち上がろうとした

その老人の知り合いが落ち着かせようとしたが、老人の怒りは怒髪天を衝くばかりのようで、制止を振り切り立ち上がりこちらに向かってきた

「目上の人間シロアリ扱いとは!」と怒り出したところで、その老人の頭部にほのかに残された白髪気づき「ああ、ここにもシロアリ」と返したところで、私も知り合いに制止された

その後、興奮しながら何かを捲し立てる老人に周囲の人が「うるさいよ」「騒ぐならよそでやれよな」と聞こえるか聞こえないか微妙な声量で文句がわきたち、その老人は知り合いに捕まり、そのまま退場していった

働き蟻とシロアリなら、私は働き蟻でいい

日本に巣くい、内側を食い散らかすだけシロアリなどになりたくもない

そしてあの老人は国葬が終わった今、いったい何を生きがいに据えたのか

誰かを恨みながら罵りながら過ごす晩年は悲しいものではないのだろうかと、いつかゆくかもしれない道に思いを馳せた

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