2020-07-04

オッチャンのかおりがした日

どこにも書くところが無いので、ここに書く。

私は出張である

全国に出張するので各所でいろいろな人と会う。

公私ともに会い、特にとある地方都市に行く際に、この数年はオッチャンに会いに行っていた。

オッチャンは、私のじいちゃんの弟である

小さいときから遠方にいるにも関わらず、可愛がってもらっていた。

大人になって今の生活をするようになった時、オッチャンは既に90歳近かった。

その都市に行くときは声をかけ、オッチャンを連れて飲みに行っていた。

なんだか、近い将来、いなくなってしまうような気がして。

徐々に足元がおぼつかなくなって…年齢を考えたら当然なのだけど。

それでも2軒はハシゴして、1軒目はおごってもらって、2軒目はおごって…みたいな感じで、楽しくやっていた。

とても元気なオッチャンだった。

携帯を持たない人だから、日程が決まればオッチャンの家のFAXを送っていた。

手描きで「このホテルに泊まるから、XX日の〇〇時に会おう」と、毎度送っていた。

いつもそうしてたのに、ある日、見知らぬ電話番号からしか携帯電話の番号から電話がかかってきた。

『今回は行けないのさぁ。帯状疱疹にかかっちゃってさぁ。歩けないんだあ~。情けねえよ…。』

と気落ちした声が聞こえてきた。

「良いよ、元気になったらまた行こうよ。ところで、携帯持ったの?」

と聞くと、

『これは息子のさぁ。ごめんなXXちゃん!またな!』

これが元気なオッチャンとの会話の最後になった。

それ以降は数年かけて徐々にボケていくオッチャンとのお付き合いになった。

ある日はオッチャンの家で、ある日は入院している病床で。

自分の子供を弟と間違ってしまうような段階にあっても、不思議とオッチャンは私のことは理解できたようだ。

その時は、飲みに行けないなら挨拶だけでもと、アポ無しでオッチャンの家に行った。

運良く会えたこの時、足は動かないが頭はハッキリとしていた。

それからは居るか居ないかからない家にとりあえず寄るようにしていた。

会えなかったら「行ったけどいなかったわ。またな!」とFAXを送っていた。

亡くなる直前に寄った際、オッチャンの家のインターフォンボタンを押すと、知らない女の人が出た。

彼女はオッチャンの娘だった。

初対面だった。

実は、オッチャンの子供とは面識がなかったのだ。

彼女は開口一番、

『うちの父はもうだめです。もう、誰もわからなくなってしまいました。』

と言われたので、それでもいいよ、どこにいるの?と聞くと、

『〇〇病院のXXX号室です』

と回答があった。

不安を抱えながらも、すぐに病院に行き、教えてもらった病室に行った。

そこにいたオッチャンは痩せて、骨と皮だけになって寝ていた。

ペシペシ叩いて、

「おい、オッチャン、わかるか?くたばっとるな?」

と声をかけると、オッチャンは嬉しそうな顔をして、

今日はどうしたの?いやー、えらいところに来て!』

と言った。

仕事や。おっちゃん、今度飲みに行く言うて、こんなトコおったらあかんちゃうんか?ホンマに行けるんか?」

あかん、もうあかん。もう、一緒に行けないのさ。ごめんなあ』

そんな話をしていると看護師さんが来て、

『え、笑ってる?話ししてる?XXさん、この人だれ?来てくれて、そんなに嬉しいの!?良かったねえ!』

『お姉さん、この子はな、ワシの甥っ子さー、大阪にいるんだあ、大阪から来たんだよう』

嬉しそうにしているオッチャンと、それを見て喜んでいる看護師さんを見て、今は関東に住んでいるとツッコめずに黙っていた。

それから数ヶ月でオッチャンは亡くなった。

ちょうどコロナの時だったから行けず、今になって行ったのだ。

家に行って、生前好きだったビールを置いて。

一応拝んで。

遺影に「これでも飲みなよ。またな。」と言って。

そのままオッチャンの子供達と飲みに行った。

彼らの話を聞くと、こうだった。

最後病院で会った時には既に誰が誰かわからない状態だった。

認知症が進んで、笑うことも起き上がることもできなくなっていた。

・なのに私が行ったら、私のことを分かっているし、起き上がるし笑ってるし、病院入口まで見送りに行くし、と信じられなかった。

看護師さんに、あんなに楽しそうに会話をしていたのは不思議だ、奇跡のような話だ。と言われた。

こんな内容を不思議だ、不思議だと真剣な顔で言われ、こちらも何だか不思議な気分だった。

そんな不思議な気分になっていた時、オッチャンの子供のふとした仕草が、オッチャンとリンクした。

【ああ、オッチャンはいないけど、ここにいるんだ。この人はオッチャンじゃないけど、やっぱりオッチャンの子供なんだ。】

そんな事を考えていると

『XXちゃん、いままで挨拶しかしたことなくて、実際のところは初めて話ししたけど、楽しかったよ。また声かけてな、飲みに行こう!』

と言い、去っていった。

その姿がオッチャンに瓜二つだった。

なぜだか今更、「ああ、本当にオッチャンは死んだんだ」と、涙が溢れてきた。

涙をハンカチで拭きながら、鼻水をマスクで隠しながら、さっさとホテルの部屋に戻った。

オッチャンが繋いでくれたこの縁は、大事にしなくちゃならないなと、思った。

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