2019-03-05

年下の男の子香りを密かに嗅ぎまくっていた話。

私には、ずっと忘れられない香りがある。

それは10年以上前アルバイトをしていた先の、後輩の男の子から漂う香水香りである

洗濯物を取り込んだときのようであり、シャワーを浴びたすぐ後のようでもある、清潔感押し売りのような香りに、10最後の私の心は銭形のとっつぁんも驚きの速さでまんまと盗まれたのだった。

一つ年下の彼は、常にニヤニヤと上がった口角に八重歯かわいいあんちくしょうで、不思議な緩さと気怠さのある大学生だった。

明るい栗色にゆるくパーマのかかったような量産された髪型は、童顔で可愛らしい印象を与える彼には一際似合っていた。

そんな彼はとにかく私の好きな香りだった。ずっとにおっていたいと仕事をしながら考えていた。

彼と普通に軽口を話せる程度に仲が良かった私は、一体何を意識してなのか「何の香水使ってるの?」の一言が言えなかった。

そもそもアルバイト先の飲食店で、香水なんてご法度なのだ

先輩である私が注意どころか「何の香水使ってるの?」とかなんとかデレデレした事できるわけがない。

いくらいい香りからと言って、あまりにも香水について誰も注意しなすぎる。

もしやこれは香水ではなく体臭なのでは…。

そんな事を考えていたときに、40代後半・ポケモンで言う所のカビゴンみたいな体型の女性店長がやって来て、彼に「いつもいい香りだよね、なに使ってるの?」と言った。

「いや注意しろ!!!!」という思いと「やっぱり体臭じゃなくて香水やったんや!!!!」という思いと「店長グッジョブ!!!!」という思いがミックスされているなんて分からいであろう無表情で、私は耳をダンボにしながら皿洗いをしていた。

独特の伸ばし棒を語尾に付ける癖のある彼は、「あ〜、友達からもらったんですよ〜、なんてやつか忘れました〜。」などと言い、へらりと笑った。

香水バレしてるのに謝りもしない!!!!」という思い20%、「覚えとけよ!!!!」という思い70%といった所だろうか。

私は震える手で水道を捻り、皿の泡を洗い流した。

残りの10%は、こんなに私が好きだと思って日々悶々としている香りが、大学生の間で簡単にやり取りされるような香りである事を知り、

どこか悔しいと感じる思いだと考えていた。

そんな思い出があるからか、私は香水探しに本気を出す時期というものが年に何度か来る。

私が感じ取ったあの香りの特徴をネット検索する。

洗濯物のような香り」「風呂上がりのような香り」…当たり前だが、膨大な数の香水がヒットする。

ひとつひとつ見ていき、ピンと来るものをとにかく探しまくる。

ピンと来たものは買ってみる。使ってみる。香りの変化を確かめてみる。

10年以上探してきた。

おかげさまでメンズ香水しか目が行かない癖が付き、「清潔感」「リネン」「サボン」などのそれらしいワードに敏感になった。

私が求める香りは今でも見つかっていない。

大学生になったばかりの男の子が、使わなくなった香水を友人からもらうような代物だ。

恐らく雑貨屋にある、簡単に手に入るような有名な香水なのだろう。

私がこんなに探しているのに。

何となく認めたくない気持ちがある私は検索ワードに引っかかった中からマイナー香水ばかりを買っていた。

もちろんどれも違っていた。ばかじゃないの。

ここまで書いておいてなんだが、彼には一切恋愛感情は無く、良い芸術作品のような目線で見ていた。

それでも、今もまだあの子香りを求めている。

から香るあの香りは、彼に会わない限り絶対見つからないと薄々感じていながらも、私の香水探しは続く。

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