当時同級生だったナイジェル(本名は吉村。純日本人だ。)は相手のガイルが放ったソニックブームを波動拳で相殺しながらそう言った。
ゲームセンターに対戦台といわれる背中合わせに並ぶ2台で同じゲームを楽しむ仕組みが取り入れられ始めた頃のことだ。
相手のガイルは遠距離でソニックブームを連打し、近づけば中足払いで牽制するというスタイルを徹底していた。
リュウの竜巻旋風脚がソニックブーム対策になる前のシリーズでは、せいぜい中足払いに対して大足払いで相打ちを取って、ダメージで優位をとるのが関の山だった。
ナイジェルはガイルの鉄壁を崩せず、すでに10試合近く負け続けていた。
最終ラウンド、すでに絶望的な体力差だ。
「そんなの知らねぇよ。リュウでも真空投げができるっていうなら別だろうけど。」
適当なことを言ったわけではない。ナイジェルは強豪が集う新宿や神保町のゲームセンターにもよく顔を出していた。
ひょっとしたら当時噂になっていたリュウの真空投げをナイジェルは知っていて、これ以上の負けに耐えきれず暴露しようとしているのではないか。
隣にあるすでに誰もやらなくなったようなパズルゲームに腰掛けていた僕は、ギャラリーの視線を気にしながらそんな淡い期待を胸に言葉を返した。
「いいか見てろよ。」
一つため息を付いてから、何かを心に決めたような真剣な目でナイジェルは言葉を続ける。
「それはな、、、」
画面上のリュウがバックジャンプして距離を取ると、おもむろに竜巻旋風脚を放った。
ガイルはそれを対処しようと冷静にしゃがんだ姿勢を維持している。
僕の目は次に起こる出来事を見逃さないようにと画面に釘付けになる。
しかし、次の瞬間ナイジェルが叫んだ言葉は、僕の全く予想していないものだった。
突如として椅子を蹴り立ち上がるナイジェル。呆気にとられる僕を背に対戦台の反対側めがけて走りだした。
ナイジェルは無類のゲーム好きだが、じつは柔道の有段者で部のエースでもある。
腹がたったのはわかるが暴力沙汰はまずい。学校帰りにゲーセンにいたことが発覚すれば僕の問題にもなってしまう。
「吉村!」
僕は焦って立ち上がり筐体の影に消えたナイジェルの姿を追った。
しかし、そこにナイジェルの姿はなく、サマーソルトキックできっちりとKOされたリュウの叫び声だけが悲しくゲームセンターに響いた。
なるほど。
ナイジェルは負けなかったのだ。
この翌日から純和風な顔立ちの彼はナイジェル(Nigel)と呼ばれるようになった。
発売応援の意味を込めて、2016年5月20日に投稿した増田を再投稿しました。(一部修正)
思い出そう!あの時の熱気と狂気を!みんなで再び熱くなろうぜ!
ナイジェル anond:20170525132610