母が在宅酸素療法を行うことになった。病院から出た処方箋のような書類を元に、帝人在宅医療の担当者が酸素ボンベと据え置き型の酸素濃縮器を持ってきた。酸素濃縮器はドラム型洗濯機をひと回り小さくしたくらいのサイズがある。
母は比較的アクティブな性格で、よく外出もするし、たまに海外旅行もした。そんな母が24時間、部屋の隅の機械につながれているのは見ていて辛いものがあった。外出中は酸素ボンベを使うが、呼吸を検出して息を吸う時だけガスを出す専用のバルブを使っても数時間しか持たないため、外泊はできなくなった。
いろいろ調べると、米国の在宅酸素療法では携帯型の酸素濃縮器(POC)がポピュラーらしい。米国路線の航空機では酸素ボンベを医療用であっても載せられないというから、POCはよほど普及しているらしい(日本では載せられる)。なるほど、ではそれをうちでもお願いしようと帝人の担当者に聞いてみたところ、帝人で扱いのあるPOCでは十分な流量が出せないというのだ。また、チューブを長くできないので室内での取り回しが困難とも。
改めて米国でメジャーな、たとえばチャート社のカタログなどを見ると、連続で3L/分以上出せる機種はいくつかあるしチューブ長も50ftなどと書かれており、言われているような制約はこれらの製品ではなさそうだ。帝人の扱っているPOCが非力だということであろう。国内の他社を見てみるとフクダ電子などもPOCを作っているようだが、性能面では帝人とさほど違わなかった。
機械を作るのであれば日本企業のほうが優秀そうだが、なぜそうでないのか。おそらく企業にとって収益性の問題があるのだろう。在宅酸素療法も他の医療行為と同様に定められた点数にもとづいて診療報酬が請求される仕組みだ。同じ点数、つまり売上が固定されているのなら単純でコストのかからない機械を使おうとするだろうし、新しい技術を開発したり他社と競争して機械を小型化したり性能を上げるメリットがない。また国内の在宅酸素サービスでは帝人のシェアが6割といわれていて、市場が寡占化していることも要因の1つだろう。
ある海外の医療機器メーカーの日本法人に問い合わせをしたところ、それなりの従業員数があるはずなのに社長直々に返事をいただき、国内で同社製品を使う手続きや代理店を丁寧に案内してくれた。日本では医療行為を標準化して報酬を定めることで、国民皆保険制度が成り立っていて専門的な医療を安価な自己負担で受けることができるわけだが、そのことで企業活動が硬直化することは患者のためにならない。患者が選択肢を持てる医療制度と医療機器メーカーの姿勢が求められているなと切に感じた。